194P 自分には特別な才能なんてない...

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才能があるとかないとかいいますが、才能とは何か、考えたことはありますか？

■自分の中の原石を教えてくれる人は？

僕は才能とは何なのか、これまでの人生の中でひたすら考えてきたようなとろがあるので、いまは自分なりに才能ということについて考えを話すことができるのですが、たとえば25歳の時の自分に「才能とは何？」と聞いても、ちゃんとした答えが返せたとは思えません。そして多くの人は、大人になるよりずっと前に「才能とは何か？」と考えることをやめてしまうので、ほとんどの大人が才能とは何かについて、答えを持っていないのです。
それなのに、日本では若い人が「作家になりたい」「ミュージシャンになりたい」などというと、「そういうことで成功するには特別な才能がいる、おまえにそんな特別な才能があるのか？」などと否定的な答えを出すことがほとんどです。才能とは何か、うまくわかっていない人が、あなたの才能を否定している。そんな状況があたりまえのようにあるのです。才能とは何かがわからず、よって自分の才能にも気がつかずに大人になってしまった人が、他人の才能について、あるとかないとか、適切な答えが出せるのかな？そういう疑いをもって、年上の世代の意見を聞いて、ちょうどいいぐらいだと思います。

この点は、親だけでなく、学校の先生も同じです。学校の先生なんだから、子どもが大人になることについて特別な地域や能力があると考えるのは（あるいは期待するのは）まったくの誤解であって、教師という仕事は、「文科省が決めた学校教科のカリキュラムを教えるための訓練を受けてきた人」に過ぎません。要するに、決まったスケジュールと方法にのっとって、教科書の内容を教えられる人、ということです。子どもの本当の能力は才能に目を向けるようには訓練されていないし、もともとそういうことは期待されていないのです。

中には子どもと接することに情熱を持ち、「ごくせん」だとか、「GTO」だとかように（古くは金八先生のように）、子どもの将来にコミットしてくれる人もいますが、もともと情熱を持った先生は少数派です。しかも、情熱を持った教師の中にはが空回りしている人も多く、勘違いしている生活指導の先生みたいな人は、情熱があるだけ危ない、というわけで、校門の門扉で女子高校生を挟んで殺してしまったり、殴って殺してしまったりするわけ（もちろんこれは実際にあった事件です）です。こう考えると、教師に、自分の才能の有無を見てもらえていると考えるのも、非現実的だということがわかります。
では音楽プロデューサーのように、才能を発掘するのが仕事、という人はどうでしょうか。こういう人たちは仕事ですから、おそらく学校の先生よりは人の才能ということに理解が深いと思います（平均値としては）。しかし彼らの仕事のスパンはどんどん短くなっていて、才能を発見して、時間をかけて育ててという考え方は薄れてきています。ライブハウスを回るなどして、「ちょっとプロの味付けをすればそのまま売りにだせるもの」をさがしているのがじっさいのところで、原石を探して時間をかけて磨くとか、光ってくるまで精神的な支えになるといったことは少なくなっています。もちろん、そうではなくじっくり才能を育てたり、原石の原石に注目してくれる人もいるのでしょうが、そういう人は「これはすばらしい原石だ」と思っても、そのように本人に言ってくれるとは限りません。言わないほうが必死にがんばるだろうと思うこともあるからです。

こうしてみてくると、今の日本で（世界の他の国のことはよく知らないのですが）、原石を持っているあなたの、その原石に注目したり、教えてくれる人は、ほとんどいないし、いても教えてくれるとは限らない、ということがわかります。

■自分で自分を大事にする

では自分の才能はどうやって見つけ、育てたらいいのでしょうか。そもそも、才能というようなものが自分の中にあるのでしょうか。

僕は、その人固有の才能というものは、ほとんどの場合、誰にでも存在していると考えています。しかしその才能がどんなものか、本人にも周囲にもなかなかわからない。わからないのは、才能を見る目利きがいないだけで、才能そのものがないわけではないという点が重要です。自分に才能がないと考える前に、自分にも、何かの才能はあると考えることが重要です。

その上でここは重要な点ですが、自分で才能だと思っているところと、人が認めてくれるところ、本当の自分の才能というのは、多くの場合食い違っています。ここが才能だと思っても、それは本当じゃなかったり、かすっているだけだったりするのです。才能というのは不思議なもので、かすっていても伸びず、ジャストミートしたときに、一気に花開く、というという特性があるようです。きわどいものなのですね。

僕自身のことでいえば、僕には人に何かを教えるということについては、どうやら才能があるようです。学生時代から家庭教師や塾の講師をしていて、10歳ぐらい下の世代を教えてきました。僕より勉強のできる（難しい問題が解ける）講師は他にもたくさんいたのですが、僕は当時から人気講師でした。仕事がとぎれたことはなかったし、「もっとやってくれ」といわれるのがあたりまえでした。今はビジネススクールや企業研修で教えていますが、これも、特に営業しなくても、仕事の依頼が続いています。

では僕がもともと教えることに才能があると考えていたかというと、そんなことはありませんでした。学生時代の仕事はお金を稼ぐのに一番時給が高かったからで、特に塾での教師は、もともと苦手でした。当時は「荒れる学校」といわれた時代で、中学校の教室で爆竹が鳴っていたような時代です。校内暴力、家庭内暴力が頻発している中で、僕のような身体が小さい大学生は、学校の教師以上に攻撃の対象になりやすいと思われる部分があったし、勉強そのものも特別できるわけでもなかったので、僕が一般的な意味で先生に向いていると思われる理由はありませんでした。正直、ツッパリ少年少女たちが最初のころは怖かった。でも、実際にやってみると、子どもたちはけっこう慕ってくれたし、最初はドキドキでしたが、子どもたちの心をつかむことができるようになりました。
自分が、客観的な目で見たつもりになって「向いている」とか「向いていない」と考えたことと、実際にやってみて「うまくやれる」いうこととは、どうやら違うのです。そして「うまくやれる」「やってあげた相手から評価される、喜ばれる」というのは、自分が「向いている」と思うことより、自分の才能を見つけるためのひとつの大事な指標なのだと気がついたのでした。

その後、30代になって、Toshiさんに誘われてグロービス・マネジメント・スクールで教えることになったときも、「講師をやってみない？」と言われても、「とてもできないよ～」という気分だったのですが、「人がやれそうだと考えていることを尊重してみよう」と思い、やってみたのでした。実際にやり始めてからも、クラスの前には緊張しまくり、クラスのあとはどっと疲れてしまい、「こんな仕事、とても続かない、来期はやめよう」と何度も思っていました。でも、実際にやってみると、受講生からの評価は悪くなく、GMSの場合、評価のよい講師はクビにならないので、それに押される形で1期また1期と続けてきた感じです。

講師として仕事をすることに、ストレスがなくなってきたのは、本当にここ1～2年のことで、初めて大人を対象にした講師をやってから、5～6年はかかりました。実にゆっくりした歩みです。最初の段階で「とてもやっていられない」とあきらめてしまえば、こういう状況にはならなかったと思うと、自分の持っている可能性＝才能の不思議を、最近実感しています。

料理も、妻がやらない人だったので仕方なく毎日やるようになり、今は料理をやっていることが楽しいし、人にもおいしいといってもらえるのがとてもハッピーなのだけれど、もし料理のうまい女性と知り合っていたらと思うと、これも不思議なことです。

自分が才能がないと思うことであっても、やっているうちに、意外に人よりうまくできるようになることは意外に多いものです。なんだか違うなと思っていても、「石の上にも3年」という言葉の通り、やり続けることは意外に大事だなと思うこともあります。でも、子こっで重要な点は、何でも3年やりさえすれば、それが才能と呼べるのではなくて、それによって人から評価されたり、人が喜んでくれたり、もっとやってほしいと言われる（thanks）、ということもとても重要なのだと思います。その意味で、最初の印象でやめてしまうのもよくないし、かといって続ければいいというものでもない。その中間の中で、「ちょっときついけど、喜んでくれる人がいるなら、やってみよう。もっと喜んでもらおう」という思いで、ていねい時続けていくことが重要で、そういう「自分を大切にしながら続ける」ことが、実は才能を磨いていくことなのだと思います。

■才能じゃなかったものもいろいろ

もちろん、反対に、好きだったけれど、あんまり才能なかった、ということもたくさんあります。たとえば音楽。コミトンでも何度か書いているとおり、音楽は昔から大好きで、あんまり好きではなかったけれどピアノを習ったり、中学生のころはギターの弾き語りをやったり、作詞・作曲をしたり、フルートを演奏していたころとか、合唱をやったり、音楽評を書きたかったころとか、音楽回りのことはそれなりにいろいろやってみました。でもこれは残念ながら才能がなかったようで、どれも自分でも満足できなかったし、人もあんまり喜んでくれなかった。喜んでくれる可能性がある人が、自分の身の回りにはいなかっただけなのかもしれないけれど、これだけあれこれやって、どれもうまくいっていないのは、やはり才能というほどのものはなかったのかなと思っています。

スポーツも同じで、バレーボール、バスケット、卓球、スキー、モータースポーツ、ダイビング、テニス等々、やってみたことはあるものの、どれもあまり興味が続かなかったし、すごいねと言われるようなこともありませんでした。唯一スキーだけはけっこう続いたけれど、これも個人のお楽しみを超えることはありませんでした。

他にもいろいろあったように思うのですが、好きなことだから、才能があるとはいえません。趣味として考えても、長続きする場合もあるでしょうが、まあそれほど長くはやれないのではないか、という気がしています。

興味があることがあっても、それが「才能の原石」なのかどうかの見極めは、もちろん簡単ではありません。でも、自分が好きというだけでなく、人がどう評価するか（Thanks）とセットで考え、両者の一致するところをていねいに見ていくことで、自分の才能を見極めていくことができるのではないかと思います。そしてそうやって自分自身で磨いていく以外、なかなか才能というのは、見つからない。でも、そうやって磨いていけば、すべての人の中に、その人にしかない才能があるはずだと僕には感じられます（こんな僕にだって、それなりの才能があるのだから）。

■パートナーの原石を大事にする

とはいえ、実際に自分の才能を自分だけで磨いていくのは、けっこう大変なことです。自分に、何かしら、小さな「特別なもの」があるかどうかは、自分自身ではなかなか見つけられないことも多いでしょう。自分の才能を見つけ、磨いていくのに、いい方法のひとつがパートナー、つまりステディな恋人や結婚相手の意見をよく聞いてみることです。

僕の場合、はじめたころの講師の仕事を、続けた方がいいんじゃない？といってくれたのは、妻でした。どこをどう見て、そういったのかは、本人もよく覚えていないようですが、そのころは「講師をやるには、服を買わなきゃならないし、新しい服を買って仕事をするのはいいじゃない？」とかいっていたように思います。これだけ聞くと、何を言っているのかわからない、まったく論理性がないような感じなのですが、「講師の仕事は、今までにない、新しいあなたをつくってくれるはず」といっているように、僕には思えました。コピーライターやプランナーの仕事とは別の、新しい自分の才能が磨かれるのでは？という意味だったのかなと気がついたのはもっと後のことですが、くたびれて帰ってきても、他の仕事をして買ってくるときとは違う何かを見ていたのだと思います。

逆に、僕は彼女のアートの才能を早くから買っていて、いずれ必ず形にすることのできる原石だと思っていました。予定ではもっとずっと速く、才能は開花するだろうと思っていたのですが、実際には予想以上の長い時間がかかって、ここに来て、確実に自分のものにできています。彼女の場合、才能が大きすぎ、彼女の小さな理性では制御しきれないような、そんな印象でしたが、理性が大きく育ってきたのか、あるいは自分の才能を制御する力を身につけてきたのか、あちこち横道にそれながらも、ここに来てだんだん形になってきました。ここ数年はぬいぐるみをつくることに才能の場を見いだし、とてもよいものがつくれるようになってきました。
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それ以前は、油絵、水彩、パステルなどの絵画、金属やクレイを使った立体作品、フェルト、パッチワークなど、実にさまざまな表現にチャレンジしたのですが、いずれも長続きしませんでした。その姿は、「才能の無駄遣い」といえるぐらい、それぞれの表現方法で完成度が高かったのですが、ついにそれが彼女の好みに合うことはなかったのです。
彼女の場合、ぬいぐるみという表現方法で、才能を継続的に作品という形にすることができるようになった段階で、それを使って社会に何かアウトプットしたり、お金に換えたりという段階までは至っていません。でも急いでお金に換える必要はないし、まず自分の才能にきちんと「働き場所」をつくることが、何より重要なのだろうと思っています。ただ、今年は「ビジネスをやる!」とか宣言しているので、ThanksやMoneyの段階に、すこしずつ入ってきたのかもしれません。

彼女の場合も、僕が早い段階に彼女の才能に気づき、その磨き方を一緒に考えてきたことで、時間をかけてここにたどり着きました。でも、才能の原石に気がつかないパートナーと結婚していれば、その才能は表に出ないで終わったかもしれません。でもその場合は、たぶん別の才能が、もっと早く開花していたかもしれませんね。

■才能なんて、たいしたものじゃない

才能について考えてきましたが、才能がまだはっきり見えていない段階では、それは本当に「たいしたことはない」ものなのだと僕は思います。

結果的にある才能が磨かれて、評価を受けるようになれば、それは「すごい才能」になるのですが、そこに至るまでは、優れているのかどうか、たいていの人にはわからない。わかるとしたら、本人か、パートナーか、あるいは運良く出会った目利き（有能は音楽プロデューサーなど）、そして偶然才能に出会った「最初のころのお客様」ぐらいで、それ以外の人にはほとんどわからないでしょう。なぜ、「最初のころのお客様」が、磨きかけのその人の才能に気がつくのか、そのメカニズムは僕にもよくわかりません。でもなぜかお客様（僕の場合、受講生のみなさん）は、そういうことに敏感なんですね。自分でお金を払うと、それと引き替えにわかるのかもしれません。

いずれにせよ、才能が磨かれていない段階で、それがわかる人は、非常に限られています。そして、その才能のあり方は、たいていの場合、わかりにくい。「この人は1年後に、100メートルを9秒台で走る」などとわかりやすい形はとっておらず、「新しい服が着れるし」というような、変化球をとって現れているのだと思います。だからこそ、自分でも自信がないし、ひっくり返すと、「たいしたものじゃない」ようにしか見えない。そういうことなのかもしれません。

まだ自分の才能が見えていない人は、自分に才能がないように思うからといって、才能がないと考えないでください。今は「たいしたものじゃない」と思うところに、意外に将来光る才能があるのです。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

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