199T 奄美旅行－日常がイイ

photo by Toshi.

今、ニュースで一番時間を占めているのは、というとライブドア対フジテレビの話のように思います。コミトンでもこの話を取り上げないかな？と思っている人がいるかもしれませんね。僕も興味を持ってみているのですが、今回は違う話を書きます。ただ、一つだけ触れておくと、誰が勝つかというのは僕の場合、第一の関心ではありません。それよりも、今回の騒動があらわにしたこと、言ってみれば資本主義の利点と、欠点、そしてこれを社会として使いこなしていくために考えていくべきところが興味深いと思っています。詳しいことは次回以降、書くことになればその時に。

ということで今回のテーマはというと、３月４日～７日に行った奄美大島旅行です。ここのところ、村おこしを念頭に毎月あちこち行っていますが、その第三弾。今回の旅行は奄美のエバンジェリストMidoriさんが組んでくれるツアーということで楽しみにしていたのですが、期待にたがわずおもしろい旅行でした。

■人が楽しい

まず、一番よかったのは、楽しい人たちに会えたということでした。楽しい人というのは一つ目に、フレンドリーでかつ、こちらのことを思いやってくれる人ということです。たとえば東京の雪で到着が２時間遅れたのに、原生林ツアーのガイドさんはこころよく時間調整に応じてくれ、かつ次の予定に間に合わせるべく、ツアーの中身をずいぶんやりくりしてくれました。厚意で僕らの行動につきあってくれたりガイドしてくれた人も何人かいました。

まだまだあります。こどもを連れていると、あらゆるところでいろんな人が抱っこしてくれたり、遊んでくれたり、眠ってしまうと寒いんじゃないかとかけるものを持って来てくれたりと気を使ってくれました。全くの初心者の僕らが加われるよう、島唄を一つ選んで教えてくれ、三味線でリードしてくれた人もいます。三味線や唄を習っている同行メンバーをとてもうまくほめて、いっしょに楽しく歌えるようにしてくれた人もいました。ある宿のおばちゃんは、Midoriさんのリクエストに応えて、島のお節句の行事であるフチ餅づくりを体験できるよう、苦労してヨモギなどの材料を集め、万端の準備をしてくれました。

もう一つ、人と接していて楽しいと感じたのは話していておもしろいいうところです。フレンドリーでこちらのことを思いやってくれる人でも、話をするのはちょっと苦手という人もいます。しかし僕らが会った人は、自分たちの生活や島の文化について、僕らが知りたかったことを興味深く話してくれました。これらはMidoriさんのアレンジによってそういう人たちばかりだったとか、Midoriさんのためにやってくれているというのももちろんあると思います。でも、たまたま会えた人も含めて、奄美全体に「人と接していて楽しい」という印象を受けました。

■日常がイイ

もう一つ僕にとってよかったことのキーワードは「日常がイイ」ということでした。逆に言うと、奄美で「よかったなあ」と思ったことの中には「非日常」があまりないのです。これはゴージャスな海、ゴージャスなホテル、ゴージャスなエンターテイメントなど、とてもゴージャスなものを求める人には物足りないかもしれません。でも僕には、身近な、肩の凝らないよさがあった。

たとえばMidoriさんのお気に入りという浜にいくつか連れて行ってもらったのですが、正直、「わ～～～きれい～！！」「おーー！　すごい！」という感じではありません。こじんまりとした湾に波が打ち寄せ、川が静かに流れ込んでいたり、宿の前に、ふつうにきれいな浜が広がっているという感じ。でも、そこで「その岩の上に立って砂浜に波が寄せる音と川のせせらぎを同時に聞くのが一番好きなの」「（ここで育った）元ちとせがステージで裸足になって歌うのがわかるよね」「神が海から来るという感じがしない？」と言われると、「確かに」という気がしてくるのです。そしてそれがここの日常なんだなというのが妙にうれしい。

宿も食事するところも同じです。これはすごい！というわけではない。でも、ビジネスでやっているというより、家に来るお客さんを歓迎するようにやっていて、あったかく感じる。またそのスタイルがそれぞれでおもしろい。名瀬で泊まったところは、朝食はないけどパンがあるからジャムとか好きなように使って食べていいよというように、経済的になるべく長く奄美を楽しみたいという人のためのところという感じ。部屋はよく実家とかにあるお客さん用の部屋という感じで床の間にミニコンポとか置かれていて、よそ行きでなくくつろげる。「布団はそのままでいいし、ごみも部屋に置いといてもらっていいですよ」といったことが書いてあるのですが、なんか「いや、片付けなきゃな」という気がしてくる(^_^)。

また別のところでは、きっぷのいいおばちゃんのトークを楽しみました。おばちゃんは潮がいいとなれば宿は閉めてタコを取りに潮干狩りに行ってしまうというようなわが道を行く人で、食事にしても部屋にしても、宿に泊まっているというより良くも悪くもおばちゃんのうちに泊めてもらったという感じ。なんか、掃除して帰らないといけないような気がしてしまう、というのもアットホームだったということだと思います。

僕が一番気に入ったのは、国直という小さな海岸沿いの「さんごビーチ」という宿です。清潔感のある普通の、でも気持ちをこめてつくったんだろうなあと感じられる部屋で、夕食はびっくりするくらいの量のキムチ鍋。鍋に入れなければ後で他のことに使ってもらえそうだったのでおなか一杯になったら残しましたが、朝食もまた、宿でありがちな朝食のパターンとは少し違って家庭の朝食のよう。国直が気に入ったのは宿だけでなく、フクギの木に守られた集落が気持ちよいこと。畑でジャガイモを収穫していたおじいちゃんに、朝の散歩の途中に会ってちょこっと話をしたり、宿の隣のカフェ兼草木染工房「てるぼーず」でお茶を飲んだりとゆっくりできました。こじんまりとした、でも観光地っぽいものがないビーチは夏に来ると気持ちよさそうで、また来てみたいなあと思ったのでした。

しかし、上のようなことを読んでも正直、何がいいのかよくわからない、旅は非日常を体験しに行くものじゃないの、という人もいるかもしれません。でも、都会の「日常」でなかなか得にくい、でも本来は日常的なもの、人や自然やコミュニティといったものを、かなり日常的なふうに感じられたことが本当によかった、と思ったのです。今考えてみると一番最初にそれを感じられたのは、着いた日の昼食で生卵が出てきた時のことかなと思います。名物「鶏飯」について出てきたのでいっしょに食べるのかと思ったらそうではありませんでした。割ってしょうゆを少したらして、そのまま飲むのです。試してみたらコクがあってびっくり。別にその店がものすごくこだわりをもって卵を育てているから出来るわけではなく、「その辺で放して飼ってるから」というだけのこと。昔、家でペットに鶏を飼っていて、生みたて卵に穴を開けて飲むのを楽しみにしていたこどもの頃を思い出したのでした。

■難しい現実

そうやって「日常」を見ていく中で、うれしいものだけが見えたわけではありません。僕らがその地での暮らしや、その地の課題にも興味があることを知っているMidoriさんはそういうところも見せてくれ、話もたくさんしてくれました。

特に彼女が見せたかったというのは、山肌がむき出しになった採石場。近くの集落の住民は粉塵や騒音に悩まされ、ついには集落の裏山に亀裂が見つかって全村避難を余儀なくされたとか。美しく広がるマングローブ原生林を見渡した後に見ただけに、なおさらインパクトがありました。しかしこれが単純に「環境を守らなければ」と出来ないところがややこしいところ。奄美に限った話ではないですが、その現場があるために生活の糧を稼げている人もたくさんいるし、そういうものに頼らざるを得ない産業の弱さがある。何かてこ入れをしなければならない、しかし産業を興したりその他の方法で経済にてこ入れしようとすると大掛かりになって環境に負荷がかかったり、実効性に疑問のあるものになったり、さらにはこれまでの生活に無理な変化を起こしてしまうものになってしまうこともよくある。でも、「バカなことはやめちまえ」とは簡単に言えないというわけです。

上の話ともつながりますが、過疎化も問題です。訪れた集落でも廃校になった小学校がありました。長寿で有名な島ですからお年寄りも元気でとても実際の年齢には見えないのですが、それでも若い人の人口が減っているのは肌で感じられます。それが地域のバイタリティにも影響している感じがします。

■たとえばどうする？－カネを使わずにすむようにすることと稼ぐこと

では、先に上げたような奄美のよさを生かしながら課題を解決して行くには何が必要なのか。車を走らせながらMidoriさんや同じく奄美二世のうっちーと話すうちに、思ったのは次のようなことです。例によって何も調べたりせず思っただけのことなので裏づけは弱いものです。しかし、こういった仮説をたたき台として考えていくことは意味があると思っています。

まず、奄美が持っているよさの多くは貨幣経済に乗りにくいところ、あるいは乗っていないからよかったりします。一方で島の生活が貨幣経済にのっかるほど、現金が足りなくなる。そこで現金を稼ごうとすると、島から出て行かざるをえなかったり、島のよさを食いつぶさざるをえなくなったりしがち。しかし高等教育や大規模な工事のように、島の外に頼らざるを得ない部分は必ずあり、それをまかなうための原資は必要です。

というような状況を考えると次のようなことが必要ではないかと思います。まずは自給自足を積極的に進めるべきでしょう。それは島内でまかなえるようにするという意味もありますし、それぞれの家で食べ物を中心に自給するというのもあります。これは単に農業をやりましょうということではありません。農業はなるべく現金を必要としない形にする。化学肥料や農薬を使い機械を使えば現金を多く必要とします。こういうものを使わず、堆肥などを使い、自然の力を借りて省力化しながら作物を育てる形が望ましい。なお、畑を見ていると雑草も多く、奄美の農業は本土よりも自然農に近い印象を受けました。

また、一部の競争力のあるものを除けば農産物を島の外まで売りに行く必要はなく、島の内部をまかなうレベルにとどめておいた方がよいでしょう。大規模にするとそれだけリスクが大きくなるからです。一方で、加工品についても原料は島で調達できるようにする。Midoriさんによると島の名物である焼酎の原料も現状では外からかなり持って来ているようですが、これを中で生産できる体制をつくっていく。

次に、衣食住の衣や住についても本土から来ているものの比率が高まっているのではないかと思います。その方が安いとか、優れているといったことはあるのでしょうが、そうして外に頼ると中の「ものをつくる力」はどんどん落ちていってしまうでしょう。特に島の気候に合っているとか、島ならではのところがある部分を中心に、なるべく島で使うものを島でつくれるようにしていくべきだと思います。実は大きな設備投資を必要としないものならば、特に職を求めて島を出て行った技術を持つ人たち（たとえばITエンジニア）が戻ってくれば、実はかなりのことができるのでは、という気がします。

ただ、このあたりは僕は全く明るくないので、どの程度現実的なのかは全く分かりません。しかし「自分のことは自分でやれるのが健全でしょ」というような素朴な疑問が正しい方向を示すことは多いと思います。「カネが足りない」というのは結局、出て行くカネ＞入ってくるカネということ。対策として、出て行くカネを減らすというのは当然のことで、ただそれを、節約するというよりも、現金を使わずに同じものを得る方法を考えるわけです。

しかし、どうしても外に頼らざるを得ないものもあり、それをまかなう必要はあります。また、外とのやりとりがあってこそ島のよさが引き出されてくる面もあります。そこは奄美に競争力のある、あるいは競争しないですむ産業で稼いでいくべきでしょう。たとえばMidoriさんはその意味でマグロ養殖に疑問を投げかけています。確かに、現時点では奄美が収益を上げられるかもしれないが、競争力があるとはいえないのでいずれ苦しくなるのではないか、またその時に問題となる環境や水産業に関わる人の被害の方が大きいのではないか、ということです。

競争という意味で一番よいのは、ナンバー１ではなくオンリー１だから、奄美だからいいというものを育てていくことです。奄美の焼酎だからいい、奄美の島唄だからいい、奄美に遊びに行くとほっとする、というように。それを全ての人に対して売り込む必要はありません。永く奄美のファンになってくれる人に知ってもらえればいい。一時のブームで無理に量を増やしても後で落ち込んだ（＝正常に戻った）時に苦しむだけです。

■一人の個人（Midoriさん）が何を出来る？

さて、上では奄美のことを考えてみましたが、個人としては何ができるのか。まさにMidoriさんはそういうことを考えているわけで、その一環として僕らを奄美に連れて行ってくれました。「やちゃぼうねっと」を運営して、奄美に関心の深い人たちをつないで行こうとしています。そこでよけいなおせっかいかもしれないけど、はたから見ていて「こんなことも考えてみたら？」と感じることを上げてみたいと思います。まあ、既にやっていることも多いと思うのですが、「同意見の人がいた」ということでプラスになるかもしれません。

まず、Midoriさんのポジションは、島の外にいて、自分自身が島の生まれではない、ということです。でも、自分のオリジンは島にあって、ここのところつながりの出来た島の人も急速に増えている。そのようなポジションで出来ることは何か。

まず、まさにMidoriさんがやろうとしていること、奄美を好きになりそうな人を奄美に連れて行くというのはとてもよいと思います。上で書いた表現で言えば、「日常や普段着がイイ」ところに行きたい人。特に唄って踊るのが大好きな人にはよさそう。実は僕は唄って踊るのはあまり好きじゃないので応援団の応援団くらい。

やちゃぼうねっとにそそられるような情報を乗せて自分で行ってもらうというのもよいですが、Midoriさんと仲間でツアーを企画して行くのがよいと思います。奄美の人はやさしいとはいえ、人と人をつなぐ役割の人がいた方が、よい関係がスムーズにつくられると思うのです。また、上に書いたように、ガイドの力で伝わっていく魅力も大きい。

向こうでのメインにすえたいのは「観光」というより、体験や会話だと思います。それも奄美の日常のゆっくりしたペースがいい。きれいな海を見るにしても、どういうペースでどんな話をしながら見るかが重要だと思うのです。参加の人数もがんばって増やしたりせず、いい体験を出来そうな人、迎え入れる側も楽しい時間を過ごせそうな人に絞っていく。そして、ともだちをいなかの実家に連れて行くような感じで連れて行けるところを宿や食事の場、いろいろな体験の場に選んでいく。最初は人数が少なくとも、はまった人たちはやがて、ともだちを連れて自分たちで行くようになるはず。それで年間１００人の人が行くようになったりしたら、それは一つのモデルになるわけで十分意味があると思います。Midoriさんは「しばらくは投資と考えて、奄美に行く旅費が稼げればいいと思っている」と言っていましたが、本当にそのスタンスで行けるなら、じっくりやることができそうです。

もちろんそれにしてもMidoriさんだけで人を集めてくるのは（最初は）限界があります。そこは奄美出身で今は奄美の外にいる人たちのサポートを得られるとすごくいい。やちゃぼうねっとで奄美の今を伝えながら、自分のやりたいことを伝えながら、彼らの共感を得て、奄美を好きになりそうな人をやちゃぼうねっとに呼んできてもらう。そして奄美とMidoriさんをさらに知ってもらって、「行ってみよう！」と思った人がツアーに参加する。

それがうまく行くようになると、Midoriさんだけで連れて行くのは厳しくなってきます。というか、そもそもMidoriさんだけでやっているのはもったいない。そこで奄美で素質のある人にプロのガイドをやってもらう。素質のある人とは、特に相手の望むことを理解して、それにあった話を分かりやすくできる人です。知識よりもコミュニケーション能力や気持ちの方が重要。知識ももちろん必要ですが、こちらの方が身につけるのは容易です。全国では今、ボランティア・ガイドという人たちがいますが、ここはむしろお金を取るガイドにした方がよいのではないかと思っています。外から現金を稼ぎ出す、かつプロとしての仕事をする人を少しずつでも増やしたいからです。「ガイドにカネをみんな払うかな？」という懸念があるかもしれませんが、信頼できる「知っている人」がいることで旅がどれだけ楽しくなるかが伝わっていれば、だいじょうぶじゃないかと思います。

さらに次のステップとしては、島のものを外の人といっしょになってマーケティングしていくというのも考えられます。ここでいうマーケティングとは、ただ売るだけでなく、いっしょに商品価値を高めていくというのも含まれます。たとえばMidoriさんが名瀬で連れて行ってくれたお菓子屋さん、僕はあまり注意して見ていなくて雰囲気的に「いいんじゃない？」と思っていたのですが、girl friendによると「もう一歩がんばってほしいなあ」という感じだったとのこと。その店は楽天にまもなく出店するということですから全国区で売り出そうというわけですが、たとえば包装はその店のカラーも意気込みもあまり感じられなかったとか。

こう感じる人が多ければ、「う～ん、思っているように売れないねえ。なんでだろう。いいものなのに」で終わってしまったりすることも多い。しかしもし外の人たちでいろいろフィードバックしてくれる人たちがいれば、そこから高めていくことが出来ます。そもそも最初からレベルの高いものを出せる方が珍しい。でも、奄美ならではのもの、自分ならではのものを出そう、という高い意識を持った人を応援する人たちがいれば、より多くのものが育っていくと思うのです。そのためには、厳しいが率直な意見を言ってくれるサポーターが重要な役割を果たすと思います。そういう人をやちゃぼうねっとの中から募っていくこともできるのでは、と思います。

長くなってきたので今回はこのくらいにします。でも、こういった一人一人の動きが世界の未来をつくる村おこしにつながっていくのじゃないかなあと感じていて、Midoriさんの今後の動きを楽しみにしていて、僕自身もまたそういった活動をしていきたいと思っています。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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