204P_LD20結婚をどう考えるか

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20代の生き方を考えるときに、特に重要なのが、恋愛・結婚です。

出会いから結婚、そしてその結婚は、幸せなものであれば、どちらか一方がこの世を去るまで続くわけで、短い原稿で語れるわけではないのですが、今回は「この人と結婚してもいいのかな？」と思うあたりから、「結婚しちゃお!」というあたりまでの考え方について、整理してみたいと思います。

■アムール、アムール、アムール！

出会った相手と結婚しようかどうしようか、という場合、結婚にふさわしい相手なのだろうか？とか、ほかにいい人がいるのでは？とか、いろいろなことを考えたくなります。「恋愛と結婚は違うんだから!」とおとなたちはいうし、確かに好きになってしまった人がみな結婚相手としてふさわしいとはいえないでしょう。

それでも、僕はやはり大事にしなければ、と思うのが、アムール、ラブ、愛です。

あたりまえじゃないかと思うかもしれませんが、あたりまえのことを、やはりきちんと見据えておきたい。というのも、結婚の相談を受けたりするときに感じるのは、結婚についての条件に当たるような、「これでいいのかな？」というタイプの質問が多く、たいていの場合、「それより、その人のことを愛しているの？　どこが好きなの？　なぜ一緒にいたいの？」と聞きたくなることが多いのです。

もちろん、僕のような「論理的っぽい人」に相談するときに、「愛してるんです～」というのは照れるでしょうから、まあ、いわないのも当然です。でも、それでもやはり、いろいろな条件の前に、やはり「好き、愛している」と人にも感じさせるような「思い・パッション」があるかどうかが、とても重要だと思うのです。

愛の持つエネルギーについては、日本人の多くは「学習」が足りないのではないでしょうか。それが結婚に当たって、愛より条件面が気になるような傾向になっているように思います。

僕が愛について理解を深める「教材」になってくれたのは、フランス映画でした。中学のから大学生のころ、「名画座」と呼ばれる映画館をあちこち回って、フランスやイタリアの映画をよく見ていました。そのころはビデオレンタルがまだ一般化する前で、その代わり、旧作が、ちょっと売れない繁華街の裏手の小さな映画館で、2本立て/300円、というような値段でやっていたのです。

70～80年代のフランス映画は、たぶん、今もそう変わらないと思うのですが、もうアムールの嵐で、どの映画もありとあらゆる形のアムールを描くことに一生懸命でした。その中でひとつのパターンがあって、平穏な、または退屈な暮らしをしている男（女）の前にある日、予期せぬ出会いがあり（年齢が違ったり、職業上、会ったことのないタイプだったり）、やがて恋に落ちて、すべてを捨てて恋に生きるようになる。で、その結果はというと、たいていはすべてを失ってしまうのだけれど、何も残らなくても、そのひとつの恋ができた人生のほうが、もとのままの人生よりやっぱり幸せだったという、苦い満足感が残る。というようなそんな映画です。ハリウッドの映画のように見た後、すっきりさわやかな高揚感というわけにはいかないし、ずっしり重かったり、不条理だったりしますが、でもその中に「愛って何？」という問いかけが、答えがないまま、あるいはその答えがない状態を答えとして受け入れなさいというような、そんなメッセージが、時間がたつにつれてじょじょにクリアになってきます。

ジェーン・バーキン主演の、もう題名も忘れてしまった映画の中で、まじめな年老いた母親が「愛は最高の神秘よ」と語りかけるのですが、この一言を言うために、2時間の映画を作ったのかな～と思うような、映画でした。

誰をどんな形で愛してしまうかは、誰にも、人間には誰にもわからない。そして恋に落ちてしまえば、それを受け入れるしかない。でも、その愛が世間的な幸せにつながるかどうかはわからない。であっても、そういう愛を得られた人間は幸せ。というような会いに対する理解を持っておくことは、結婚を決めるときには、けっこう役立つような気がします。

僕自身のことでいえば、やっぱり出会いと、心ときめく感じは、これが神秘的な愛なのかなーと思うような、けっこうドラマチックなものでした。もうだいぶ忘れてしまいましたが。この女性といると、それまでとは違う世界に連れて行ってくれそうな、あるいは一緒に行けそうな。そういう気持ちでした。

結婚を考えている相手がいるなら、どれだけ相手を愛しているか、好きか、惹（ひ）かれているかをしつこく考えてみてください。

■たくさん話す

愛を深め、確認するためには、やはりたくさんおしゃべりすることが一番ではないかと思います。といってもただしゃべるというのもネタ切れになりますから、一緒に同じことをする時間をたくさんとり、見たり、やったり、食べたりしたことについて、おしゃべりする、というごくごく基本的なことをたくさんしてほしい。

同じものを見て、同じものを食べて、似た言葉が出る人とは気が会うと思えるし、ぜんぜん違う言葉が出てきても、それについて感心したり、納得感があれば、やっぱり気が合う。意見が合わなくても、相手の意見をおもしろいなと思えたり、楽しめたりできるなら、それが愛のひとつの現れなのです。一方、言葉を聞くたびにお互いを否定し合ったり、いやな気持ちになるなら、その理由をよく考えてみてください。なぜいやな気持ちになるのか、話していて悲しい気持ちになるのかを伝え、一緒に考えてみること。それを繰り返しても、楽しく話せない時間が多いなら、その人とは愛がキープできない相手かもしれません。

話すことで深まる関係を、結婚する前につくっておくことは、結婚後に大きな差になります。人間は言葉で伝え合う生き物で、長い時間一緒にいるほど言葉のしめる重みは大きくなります。一緒にいても、話をすることが楽しい相手であり続けられるかどうかは、結婚を決めるときの大きな判断材料になります。

もちろん愛の形はいろいろあると思うので、言葉だけがすべてではありません。顔が気に入った、かわいらしい、セックスの相性が最高というのもあります。というか、重要です。そして、たとえばセックスの相性だけで生涯幸せでいられるカップルもいるかもしれません。でも僕は残念ながら、セックスは最高だけれど、話し合えなかったり、心の部分で愛し合えていないというようなカップルと会ったことがないので（あるいは会っていても気がつかないのかもしれません）、そのあたりはよくわからない。僕と妻も、セックスの相性が最優先のカップルではないので、よけいわかりません。

僕に言えるのは、不器用でも、言葉で伝え合うことができているカップルは、お互い満足度が高く、幸せそうだということです。

■やっぱり同棲でしょう

ともに同じことをしておしゃべりし合う、ということをたくさんするいちばんいい方法は、一緒に住んでしまうことです。今は結婚前の男女が一緒に生活することに、ほとんど抵抗がないと思うので、僕が言わなくても普通のことでしょう。

ただ、これもときどき感じることですが、一緒に住んでいるのだけれど、実際には仕事が忙しいとか、別の友だちと遊んでいるなどで、あんがい一緒の時間を過ごしていないカップルが多いかも、ということです。

僕は結婚前、妻になる人と2年ぐらい同棲していたのですが、同棲の目的はとにかくいつも一緒にいること、そして家の外でのデートの繰り返しに飽き飽きしていたことでした。いつも誰にも気兼ねなくデートしていられる場所がほしい。だったら同じ場所に住んでしまった方がいいね、という感じです。だから、同棲中も、そして今も、可能な限り一緒にいるし、一緒の時間を過ごして、その時間にあったことについておしゃべりすることが、今も日常です。

もちろん、いつもいつも一緒にいたいカップルばかりではないので、別々の時間を過ごすのもいいと思います。実際、僕も一緒に生活して、最初の5年ぐらいは、「ひとりの時間を持ちたい」が一番ののぞみで、妻ともそれについて何度も何度も話しました。結局はひとりの時間を持つことについて彼女の理解を得ることはできず、僕はだんだん、ひとりの時間がないことになれていったのですが、それでも完全になれるのには10年ぐらいかかったかもしれません。

話し合っても理解されないこともあるし、理解されても実現されないこともあります。でも、お互い理解して行動する以外、一緒にいる意味はない。そして一緒にいることで得られる幸せは、いくつかの実現されないことに勝る。そういう気持ちになれれば、それは長く続く伴侶といえると思います。

同棲していると、同じことをたくさんすることになります。食べる、寝る、洗濯する、掃除する、テレビを見る、音楽を聴く、出かける、一緒に考えて家具や音楽やクルマを買う。そのたびに、おしゃべりするネタが増えるのですが、当然、考えが合わないこともあります。それも、たいていは実につまらないことです。トイレを出るとき、スリッパの向きを変えないとか、手を拭いたタオルがいつもくしゃくしゃになっているから乾かないとか、脱いだ服をベッドにおいてほしいのに、ゆかに脱ぎ散らかすとか、つくった料理を、いつもほんの一口残すとか。そういう細かい食い違いは、自分にとってはあたりまえのことで、相手にとっては気になる不愉快なことで、そしてお互いが納得しさえすれば、どうでもいいことです。こういうどうでもいいことを、どう決着つけるかが、実は結婚してからの生活をスムーズにするかどうかを決めます。この段階で納得できずにガマンし続けると、結婚は幸せなものにはなりません。

はじめは気になったけれど、あきらめて気にならなくなったという場合はそれでいいのです。しかしどうしても納得できないなら、この段階できちんと話しをして納得できるようにしなければいけないし、問題されたほうは、「不当だ」と思うことなく、きちんと向き合い、話し合う必要があります。どこかぎくしゃくしている夫婦や、離婚してしまうカップルを見ていると、この段階でのコミュニケーションを放棄してしまい、そのまま結婚生活を続けたなと思えることが多い。神は細部に宿るといいますが、こういう細部をどう折り合っていくかが、結局のところ信頼関係の根幹をつくっていくのです。

■仕事はどうする？

結婚を考えている今の20代で、一番重要なイシューは、仕事と恋愛、どちらを優先するかということでしょう。

もちろん一生仕事を優先していれば、幸せな結婚はできないでしょうが、しばしば問題になるのが、男女それぞれが、仕事を優先したい時期がずれてしまう、という状況です。仕事が忙しく、またやりがいを感じているときは、恋愛や結婚はちょっと待っててほしい、と思うもの。しかし一方がヒマな時期だったりすると、結婚を考えるタイミングになり、相手にしてくれない、したくない状況になってしまいます。かつてと違うのは、今は男女が交代でこの状況になることが多く、こうなると、いつまでたっても結婚できず、時間切れのように分かれてしまうということも多いのです。

この問題を解決するのは、今の時代環境を考えるととても難しいのですが、あえていえば、男の子なら(^^;)、仕事が忙しくても、彼女が真剣に結婚を考えているなら、結婚にも仕事にも同時に向き合いなさい、ということ。

人生、長くやっていくと、一度や二度、本当にしんどいときが来るものです。いろいろなことが重なって、もう抱えきれない、後にしてくれ、というようなときです。結婚と仕事のピークが重なった時、もし彼女を本当に愛していて、話もきちんとできる大事な人なら、絶対手放してはいけません。結婚と仕事、同時に向き合うことは大変なことですが、覚悟を決めてきっちり対応するべきです。今の時代は女性のほうがパワーがあったりしますから、根性だして、しんどい時期を乗り越えるのは女性の方かもしれませんが、いずれにせよ、どちらかが大事な局面だと覚悟を決めてかかるしかありません。

当然、仕事で遅くなり、かえって彼女と話し合い、ちょっとした意見の食い違いでケンカもしたり、結婚についての手続きやら何やらしていると、ほとんど寝られない鉄哉に近い日が続くかもしれません。僕も、一番ひどいときには、11時に戻ると彼女が話したくて待っていて、午前4時5時まで話し合って、7時に起きて会社に行くという生活を続けたこともあります。今はとても体力が持ちませんが、若い時期だからこそ、こういう修羅場も引き受け、大事な愛を放さないでもらいたいと思っています。

結婚してもハッピーなカップルは、たぶん、こういう時期をどこかで過ごしていると僕は思います。きつくても、きつい時期がある分、深まる時間になる。逃げずに、愛に向き合っていかないと、今の時代の中、幸せな結婚をするのは難しいのかもしれません。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

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