209P LD20 うまくやっている夫婦を見に行く

photo by bibi.

20代のライフデザインは、結婚について考えています。今回は、結婚や家族を持つということのよさについて考えます。

■結婚→出産→育児はつらいこと？

10～30代の結婚前の男女を話していると、いつも不思議に思うのが、結婚や出産についてマイナスのイメージを持っている人が多い、ということです。

「結婚したら自由に遊ぶことはできないから、今のうちに遊ばなくちゃ」
「家族を養うのは大変だから、結婚するのは気が重い」
「子どもができたら、育児がものすごく大変だから、いやだな」

といった具合です。

僕自身のことを思い返してみると、確かにそういうイメージもありました。でも、実際に結婚し、子供を作ってみると、確かに大変な面はあるのですが、以前考えていたこととは少し違う、というかだいぶ違う。

以前、結婚する女性は、白無垢の婚礼衣装を着ました。白無垢というのは死者が着る衣装でもあり、結婚はそれ以前の、親と過ごした自分を捨て、新たな「妻」という人間に生まれ変わるという意味だと説明されます。なんだかイヤな説明ですね。こういう説明があるから、よけいに結婚にマイナスのイメージがあるのかもしれません。それに、白無垢を着て「生まれ変わる」の女性のほうだけというのも、フェミニストの僕としては許せません(^-^)。

とはいえ、この説明は半分は正しいのです。つまり、結婚生活の意味は、結婚してみないとわからない、という点です。いえ、もう少し正しく言うなら、結婚生活がどんなものなのかを、独身時代に知る機会は少ないから、積極的に理解する努力をしないと、マイナスのイメージばかりがついてしまう、というべきでしょう。独身者にとって結婚生活は、親を見ていればわかる、と考えがちです。しかしいくら身近にいても子どもの立場からでは、親にとっての結婚の意味は、見えてこないのです。

簡単な事例で考えてみましょう。親にとって子育てはかなり負担ですから、親は何かにつけて「子どもを育てるのは大変だ」「大変な思いをして育ててきた」というようなことを子の前で言ってしまいます。これは親の立場に立ってみると、わかるのです。ちょっとでも大変だと思うと、それを子どものせいにしてしまう。なかなか自分のせいにできないのです。まあ、人間というのは、何につけ負担なは他者のせいにしたいものなのです。では子どもの立場からみるとどうかというと、子どもは親の負担を代わってあげることができないので、親の言葉をそのままダイレクトに受け取るしかありません。ああ、大変なんだ。自分は親に負担をかける存在なんだ、と。感受性が強いまじめな子ほど、その思いが強くなり、結婚や育児は大変だという印象を持ってしまう。

でも、ここに落とし穴があって、親は子どもにどれほど助けられ、生きる力をもらっているかという点については、子どもに話すことはあまりない、という点です。親が子どもに感謝するのは、親が年をとり、子が大人になってからか、あるいは子どもが不幸にも早く死んでしまったようなときだけかもしれません。これが親子のふつうの関係であって、だからこそ、子ども（独身）の立場からでは、親にとっても子どもの意味が見えず、親の負担感ばかりが目についてしまうのです。これが、結婚後の生活を見えにくくしている大きな理由なのではないかと僕は考えています。

■妻（夫）や子どもは自分が生きる力になる

ここまでの話の裏返しが、結婚の意味、結婚のよさになります。ひとりでいては得られない、生きていく力や生きていく勇気を、結婚相手や子どもの存在は、自分にくれる。こんなものでいいやという投げやりな自分から、ここはしっかりやらなくちゃ、やりたいという思いが出てきて、がんばれる。

もちろんがんばるだけではありません。自分一人だと、無意味にがんばりすぎてしまうようなとき、結婚相手や子どもはそういう自分を現実に引き戻してくれることもあります。会社の中で競争に追われているとき、あるいは競争に負けて落ち込んでいるとき、もしひとりなら「自分はもう価値がない人間なんだ」と思うかもしれません。しかし家族がいれば「会社で競争の負けても、あなたは、大事な家族だよ」といってくれる人がいる。それで緊張がほどけて、イライラしない明日を迎えることができる場合もあります。

もちろん逆に作用してしまうこともあり、会社の競争で疲弊しているときに、家族が追い打ちをかけることもあるでしょう。これでは家族といる意味はないですよね。

家族は、自分以外の誰かがうまく行っていないときには励ましたり、ゆるめたりして助け、自分がうまく行っていないときには助けてもらう、そういうエネルギーをもらったり、緊張をゆるめてもらったりするためにあります。独身時代に気がつきにくいのは、子どもである自分が親をどれだけ助けているのかということで、親もあえて言わないようにしているので、子どもは自覚が持てない。だから、自分が親になって子供を持つことに意味が感じられなのです。

もしあなたが独身で、両親や兄弟と一緒の生活しているなら、一度、両親の立場で考えてみるといいかもしれません。両親が厳しい時期というのがたぶんあったと思います。不仲で離婚の危機だったり、仕事がうまく行かずにケンカをしていた時期、両親の両親の世話でもめていた時期など。そういうときに、子どもであるあなたがいたことが支えになったことはあるか？といったことです。想像してみてもいいし、もちろん話し合ってみるのもいいことです。中には「あなたがいたからよけい大変だった」と逆襲されてしまうかもしれませんが、幸福感のある家族であれば、子どもが親を助けた機会はたくさんあるはずです。

■うまくやっている人はちゃんといる

そうはいっても、自分が子どもの立場で、親に確認したとしても、今ひとつピンと来ないものです。

そこで、友だちや先輩で結婚をうまくやっている人に実態を聞くというのもよい方法です。といっても、単純に聞けば、「結婚は大変よ」とか「子育ては大変よ」という言葉が返ってくることが多いでしょう。日本人は、大変大変といいたがるところがあります。

僕がみるところ、独身の方が思うより、実際に結婚した人たちはずっとうまく、幸せにやっています。というよりは、幸せにうまくやっている人はちゃんといて（数や比率についてはあえて語りませんが）、その人たちは結婚し、子どもがいて本当によかったと思っている。そしてけっこう幸せなのです。

でも、ここは重要な点ですが、自分が幸せだと思っている人は、普通はそれを人に話したりはしないのです。「あれを買った」「ここに行った」というできごとの自慢はするかもしれませんが、「自分は幸せ、ハッピー」という人は、ほとんどいません。それどころか「大変」という人のほうが多いのですが、実はけっこうハッピーにやっている人は多いのです。

そこで、こういうハッピーなカップル、家族を捜し出し、彼らのハッピーの理由やハッピーさをみてくる、というのは、結婚の動機をつくるという点で、大事な意味を持つと僕は思っています。つまり結婚生活のモデルを見つけ、「こうなりたい」というあこがれを持つことは、結婚してもいいんだ、結婚したいという気持ちをはっきりさせるという点で、価値があるのです。

■ハッピーな人たちを見に行く

そこで、ハッピーなカップルや家族に会いに行くことについて考えてみましょう。

実際には新婚早々から離婚を考えているとか、子育てが終わった離婚、というカップルは多いので、誰もがハッピーであるというわけではありません。ハッピーなカップルをしっかり見分けておかないと、参考にならないでしょう。もちろん、彼らは自分では「ハッピー」とはすぐに白状しないので、うまく見極める必要があります。

見極めポイントのひとつは、結婚相手を悪く言わないという点です。あたりまえといえばあたりまえですが、うまくやっているカップルはお互いに相手のことを悪く言いません。もちろん気に入らないことのひとつやふたつ、口にすることはあるでしょうが、そんなときは「それって最悪だね～、一緒にいないほうがいいんじゃないの？」「けっこうひどい人だね～」というようにちょっと相手を悪く言ってみます。すると、ハッピーな人なら「でもいいところもあるんだよ」とのろけのほうに転じてくれますから、これはハッピーな証拠のひとつになります。といっても、中には「いい夫婦、いい家族」と見せるために、嘘を言う人もいますから、のろけすぎのように感じる場合はちょっと注意が必要です。

もうひとつの見極めポイントは、経済的な満足度です。夫婦、家族は経済単位でもありますから、経済状況に満足していれば、ハッピー感は強くなります。といっても、もちろんお金がたくさんあるほど幸せ、ということでありません。今の経済状況への納得感や、将来に大きな不安がない、あるいは不安はあっても、たぶん何とかなるんじゃないかな～と思っている、などという場合です。経済的に「これではやっていけない」と思っている人はお金のことで言葉が詰まったり、満たされない気持ちを話すものです。

3つめのポイントは、家族や子どものことを聞いたときの話の出る量です。独身のころを知っていればよけいよいのですが、結婚がハッピーな人は、生活のこと、子どものことなど、聞かれれば、どんどん話してくれることが多いのです。あなたとのあいだに一定の信頼関係があれば、聞いたこと以上に話してくれるのがハッピーな人で、アンハッピーな人は答えの口数が減りがちです。

というようなところ見つつ、ハッピーかどうかを見極めてください。話の語り口がネガティブかどうかは、あまり問題ではありません、本当に不満なのか、不満とりあえずいっているだけかを見分けることが重要です。話すときの表情も参考になります。

さて、この人たちはハッピーだと思うカップルや家族に出会ったら、特にお互いに支え合っているという部分について話を聞いてください。たとえば、共働きなら、仕事でやなことがあったら相手に話すかどうか、話すことでどんないいことがあるか、あるいは、話さなくても何かあったことはわかるのか、そんないらいらしているようなときはどう接するのか、あるいは接してくれるのか、など。

僕のハッピーな友人たちの話を少しだけ書いておきましょう。

Aさんは娘の学校で知り合った女性で、なかなかチャーミングな女性なのですが、彼女の夫はインターネット関係で起業中で、追い風に乗るためにがんばっているのだとか。まだ収入は安定しないのに、また新しい会社を作った、3つも会社を持っているのに、みんな赤字よ～とけらけら笑っています。彼女も「仕方なく会社の経理なんかを手伝っている」といって大変がっていますが、自分の力で立とうとしているだんなさんを愛しているのが伝わってくるのです。もし愛がなければ、「儲かりもしない会社のことばかりで家族のことはほったらかし」と、というぐらいでそれ以上話してくれないのではないかと思います。一人息子がかわいくて仕方がないという感じで、息子にラブラブな母親というのは、見ていてほほえましいものがあります（息子の側にたつと、ちょっと不安な面もありますが）。

Bさんはやはり娘の友だちのママで、この人も若い頃はモデルをやっていたという、なかなかの美人。でも気さくな人柄で、僕がパソコンに詳しいと知るとあれこれ聞いてくるようなタイプです。結婚相手は大手企業で忙しく、あまり家にいないと言いつつも、そのことを悪く言うようすはありません。「この業界はしょうがないね」と納得しているようです。その後、たまたま地域のレクリエーションの会に一緒に参加したときにだんなさんも来ていて、あ～なるほどというぐらい仲良し。新婚みたい、とは言わないものの、一緒にいて物理的な距離が近く、愛があるなーという感じがします。

独身の方には、ぜひこういうカップルや家族に、家族でいる意味やよさ、ひとりでいないほうがよかった、という言葉を、聞いてみることをおすすめします。たぶん、「ひとりでいるより、家族がいる方が絶対いい」と応えてくれるはずだし、さらに聞けば、どんなときにいいと感じるのか、教えてくれるでしょう。

もしあなたが幸せな結婚生活を送っているなら、後輩の独身者にはそのことを隠さず教えてあげてください。結婚は、大変なことも確かにあるけれど、それ以上にハッピーなものなのだということを。子どもがいることは負担にはなるけれど、子どもがいるから自分の生活が張りがある、がんばれる、和む、ということを。

人間、ハッピーで楽しくないことは、したくないものです。結婚に踏み切れなかったり、結婚の意味がわからないと感じている人は、ぜひ、ハッピーな人の様子と秘密を、みてください。不幸な結婚をしてしまう人もいる反面、ハッピーな結婚をしている人もたくさんいます。そしてそういう人は、自分からは「ハッピーなんだよ」とは言わないということを忘れずに。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

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