213P LD20お金に対する感覚のつかみ方

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今回は前回に引き続き、お金の話をします。

世の中にはお金に関する本、特にお金持ちになるといったたぐいの本や、自分がお金持ちなった話がたくさんあるのですが、ああいうのを見ていると、すごいなーと思ってしまう方です。僕は自分のお金のセンスに自信がない、という話は前回も書いたとおりで、お金については失敗してばかりです。無駄遣いもしてしまうし、チャンスがあるのに、それを捕まえてお金に換えることもうまくありません。

「やりたいことを見つける」「やりたいことに近づく」「恋愛や家族」といったイシューであれば、ある程度自信を持って話す事ができるのですが、お金のこととなるとどうもイケません。そういう僕が書くお金についての話なので、この話は、「お金との付き合い方がへたでも、こう考えれば少しうまくやれる」という意味で、特にお金に苦手意識があったり、お金に固定観念が強い人に読んでもらいたいと思っています。

■ストックか、フローか

まず最初につかんでもらいたいイメージは、ストックとフローです。

お金持ちと聞いて、どんな状態の人をイメージするでしょうか。大きな家に住み、高級車に乗り、高いブランドの服を着て、という様子かも知れません。でもこれらはいずれも「高価なものを持っている」という状態をイメージしているのであって、つまり資産=ストックについてのイメージです。

ではこういうストックをもっている人は、日常的にどんなお金の使い方をしているのでしょうか。日本では「あの人はお金持ちだけど、生活は質素なのよ」というあり方がひとつのあるべき姿のように語られがちです。この場合、ストックはあるけれど、日常的に多額のお金を使っているわけではない（＝フローは少ない）という意味合いでしょう。日本人にとって、「お金持ちだけど質素」というイメージがよいイメージで、逆に「（貧乏なのに）カネ遣いが粗い」というイメージは悪いイメージということになります。

では、もうちょっと深く考えてみましょう。ストックはあるけれど、フローは少ないという状態はどういうことでしょうか。大きな家はあるけれど、お金を使わないということが実際にあるのでしょうか？　大きな家は冷暖房にお金がかかるし、お風呂も大きくてお湯を満たすのには水道代も燃料代もかかります。家は買ったらそのままというわけにはいきませんから、ペンキを塗り替えたり、給湯器が故障すれば、大きな家ほどお金がかかります。立派な家なのに、メンテナンスが入っていなくて、壁にひびが入っていれば、質素ということもできますが、みじめでもあります。大きな風呂にお湯を少ししか入れず、シャワーはもったいないから使わない、としたら、そういう人を「お金持ち」と呼ぶでしょうか。クルマにしても、高価なクルマは修理代も高価です。それに、高価なクルマのもつ高性能を維持するためには、大衆車のふつうの性能を維持するより、こまめなメンテナンスが必要です。たとえば大型車なのに強力なブレーキがついていれば、ブレーキパッドはディスクはどんどん摩耗し、高価なパーツを頻繁に交換する必要があるのです。

江戸時代ならともかく、現代では、資産家だけれど質素というのはあくまでも比喩であって、資産は並はずれているのに、フローは凡人並みというのはまずあり得ないのです。

もちろん、同じお金持ちでも、大邸宅の割に質素に見える人と、大邸宅の中に一歩踏み込んだら、過剰な装飾であふれている人といるのは事実です。そして比べれば前者のほうがフローは少ないでしょう。しかしだからといって、前者が、庶民と同じように質素だということはまずないのです。

つまり、資産をもてば、資産なりのフローがかかるのがふつうなのであって、その意味で宝くじが当たったとしても、庶民はしょせん庶民でしかないのです。ジャンボ宝くじで3億円の家は買えても、それにふさわしいフローは庶民のままの生活では出すことができないのです。このことは、別の意味で言うと、高価なものを買うときは、それに見合ったフローを覚悟しなければならないということです。ブランドもののバックを思い切って買えば、それに合った服を着たくなるものだし、服を高くすれば靴も、身につけているものが高価なら食べるものも、そしてついタクシーに乗ってみたくなり、というように、連動していくものです。

もしフローを少なくしたいなら、高価なものを買う（ストック）こと自体、リスキーだということを知っておくとよいでしょう。

■貯めるか、使うか

では、もっているお金を家やクルマに替えずに、お金のままもっていればどうでしょうか。お金は黙ってもっているぶんには、維持費や虚飾を飾る必要はないので、「お金持ちだけど、質素」という状況が可能です。

しかしそういう状況は、「美学」としてはいいでしょうが、実際的な意味はあまりありません。

お金を使うというこは、特に20代にとっては、未来への投資であり、何らかの経験や知識を増やすことを意味しています。前回書いたとおり、旅行に行くなどして知識や経験を自分の中に蓄積するという意味はもちろんですが、たとえば競馬に明け暮れて浪費してしまったとしても、若い時期で、そして将来を切りひらく努力が続けられるなら、その競馬の浪費は決して無駄にはなりません。麻雀、映画、サーフィン、音楽、何であっても、そしてそれがうすうす単なる浪費だと自覚があったとしても、自分らしく生きようという意志があり、努力ができるなら、それは必ず将来につながるのです。

それに対して、お金を現金で持って貯めるだけなら、将来につながる何かを得る貴重な機会を自ら放棄していることにもなりかねません。今貯金に励むことが、未来を痩せさせていく可能性があるのです。

もちろん、お金を使わずに、自分の将来につながることをやることもできます。たとえば地域の高齢者のためにボランティア活動をするとか、休日は近くの農家を手伝って代わりに野菜をもらってくるとか、お金を使わずに、貯めながら、将来につないでいくこともできるでしょう。しかし実際にはこういう場が誰にもあるとは限りません。今の時代、何らかの行動、活動をすれば、相応のお金がかかってしまうのがふつうで、お金を使わずに貯金するということは、その機会を失っていないか、よく考える必要があります。

お金を貯めたとして、いずれそのお金を使うときが来ます。自宅を買う人もいるでしょうが、夢を叶える（たとえば自分の店を持つとか）ための資金にしたい人もいるでしょう。大事なことは、その時に「お金の使い方を間違えない」ということです。

若い頃に浪費した経験や、投資のつもりでやったことがムダになった経験、お金をかけた割に結果が伴わなかった経験、仕事を頼むときにどんな人が信用できるかを判断する経験など。貯めたお金を使うときに、こういうお金の使い方の経験が大きくものを言うようになります。ずっと貯めるばかりだと、ここ一番の大事なときに、お金の使い方を適切に判断するだけの知識や勘が身に付いていないとすれば、その貯めたお金もムダになってしまうかもしれません。

実際、こういう人は意外に多いのです。たとえば、若いうちから、100万円、200万円という買い物（たとえばクルマや長い旅行など）をした経験がある人は、将来、家を買う、店を出すといったときにも、額の大きさにびびることがなくなります。しかし高額の契約をした経験がないと、自分で思い切って決断する力がなくなり、誰かの判断に頼ってしまいがちです。その結果、営業の人の勧めるままに契約してしまったり、店の内装を自分でできるとは思いもせず、設計者に高いお金を払うことになったりします。結局は貯めたお金のうちの何割かをムダにすることになったりするのですが、若いうちからお金を使う経験を積んでいると、「あの仕事にこの金額は高い」とか、「以前は勧められるままに買って失敗したから、今回は自分で徹底的に考えて決める」といったことができるようになるのです。

もちろん、だからといって、もっているお金はどんどん使えばいいというわけではありませんし、支払えないほど多額のカード利用をしてもいいといっているわけでもありません。僕がこういう話をする背景にあるのは、「貯金は美徳」という日本の伝統的な価値観が、若い人の経験値を上げることを妨げているような気がすることがあるからです。

貯金と消費のバランスを取ることが重要、ということになるのでしょうが、気持ち的には消費に軸足を置きつつ、お金を使った分、何を得られたのかに注意深くなり、お金を使うことの意味を、若いうちに感覚的につかんでおくことが重要だと思っています。

■お金か、時間か？

次に、お金と時間の関係についても考えておきましょう。

僕は以前、企業の経営にはほとんど興味がなく、よって、いわゆるMBAにもまったく価値をおいていませんでした。しかしあるとき、僕の友人が「だったらお金で時間を買えばいいじゃない」という話をしてくれたのです。

その時僕は、新しい仕事を始めようか検討していて、そのための準備を自分でやろうと思っていました。でも時間も限られているので、準備を自分でやろうとすると、やりたいことが実現できるのに1年ぐらいかかってしまいそうでした。

経営学部を出てMBAホルダーの友人は、「経営学では、お金で時間を買う、お金と時間は互換性があると考えるんだよ」と教えてくれたのです。お金を使って、誰かに仕事を任せれば、僕が1年かかってやることを半年でできるかもしれません。もっと人を雇えば1か月で終わるかもしれないのです。ただし、お金は時間の短縮に反比例して、2倍4倍とかかるようになります。この、お金と時間の互換性という性質は、とても重要なので、ぜひ覚えておいてください。

では、そもそも最初に投じるお金はどうしたらいいのでしょうか。だから、あらかじめこういうときに備えて貯金をしておくべきなのでしょうか。もし、その仕事が、早く事業化するほど利益も増えるようなものなら、早く実現することに大きな経済的な価値が生まれます。すると、その価値を実現するために、第三者が資金を出してくれるという状況が生まれます。一時的にお金を出すことで、将来大きなリターンが期待できるなら、リスクをとってもよいと考える人がいるわけです。これが資本家の論理です。

資本家は、手持ちのお金を早く増やしてくれる人を求めています。増える可能性は、失敗してゼロになってしまう可能性とを比較して、増える可能性のほうが多いと判断するなら、資本家は喜んでお金を出します。そのお金で時間を買い、早くサービスを提供することで、性降雨できる可能性が生まれるのが、資本主義なのです。

20代にとってわかりやすい例を考えると、引越を考えてみてください。自分のクルマに荷物を満載して引っ越しを済ませてしまえば、安上がりだけれど、荷造りから荷ほどきまで、かなりの時間が取られます。「引越をすべてお任せするパック」に高額の費用を払ってやってもらえば、引越前も、引越後も手間がなく、生活基盤がない時期を最小限にすることができます。もっと小さい例では、交通機関でしょうか。徒歩で行けばただですが、電車代を払って移動すれば、電車賃がかかる分だけ、早く確実に目的地に行くことができます。

このように考えると、払ったお金と短縮できた時間が比例しないこともよくあることに気がつくはずです。お金を時間との関係でとらえる習慣があると、お金の意味合いがよりよくわかってくるのです。

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従来の考え方にとらわれることなく、お金の意味を多面的につかめるようになっておくことは、ライフデザインをうまく実現するために、大きな意味があります。もちろん多面的につかめることと、実際にうまくお金と付き合うこと、お金持ちになることとは、イコールではありませんが、従来の「お金観」を変えることが大切です。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

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