214P 先見力強化ノート(1)

photo by paco .

今週は、前回までの「考え方のつくり方」に代わって、まもなく出版予定の「先見力強化ノート」から、先行原稿をお届けします。

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先見力強化ノート
渡辺パコ著
ビジネス社刊
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■はじめに

すこし前まで、訪問先の企業で雑談していると、「次は何が、はやるんでしょうか？」という話題が必ず出ました。次にヒットするものを知りたい、それをうまく先取りできれば、大儲けできるから、というわけです。実際には大儲けしたいというより、売り上げ不振に悩む起業が、なんとか売上と利益を上げて一息つきたいという、必死の「未来探し」でした。最近は企業の業績も上向き加減になってきて、会社として「どんな未来がくるか？」という問いより、（個人として）「これからの時代を生き抜くために、どんな仕事、どんな生き方をすればいい？」という疑問があり、そこから「これからどんな時代になるのか？」と知りたいという関心が高まってきていると感じています。

でも、より直接的には、おおよそ自分の考えは見え始めていて「次にこんな仕事をしたい」「こういう生き方をしたい」という希望は持っているけれど、「それでいいのか、本当にそれが時代にマッチしているのか」を知りたいという人が多くなっています。時代に合っているからうまくいくということもあるかもしれませんが、それ以上に、何かやるときに、「これでいいに違いない！」という心の支えがほしくて、未来を知りたい気持ちになるのではないでしょうか。

時代の変化は速く、当分は変化の激しい時代が続きそうです。だからこそ、先を読む力をつけたい、それによって、よりうまく生きたいという気持ちが強くなっているのです。

では、先を読むということはどうすればいいのか？というと、こればかりは学校ではまったく教えてくれないし、もちろん学校もありません。著者である僕も、「自分には時代の先がよく見える！」と言えるわけではありません。でも、注意深く世の中を見ていると、「先が読めているひと」というのがいるのだということがわかってきました。そういう人たちと話したり、先を読むときの視点について僕自身が学んだこと、気がついたことをベースに、未来をみるための方法をまとめたのが、この本です。

「縦軸（歴史軸）」「横軸（地球軸）」「先を見ている人」「未来のカケラを探す」といった軸を探しながら、カンに頼るのではなく、論理性と合理性を（なるべく）持ちつつ、未来を見極めることに、いっしょにチャレンジしてみましょう。

■第1章先見力って何？　～未来は、ていねいに見ると見えてくる

○先見力は、予想や予言ではない

先見力があるということは、将来がわかるということですから、本当に先のことがわかれば、それに合わせて行動をとることができます。たとえば、今は値下がりしているけれど、これから上がりそうな株がわかれば、その株をたくさん買っておいて、値上がりしてから売れば、大もうけできます。将来のことがわかるなら、どれほどいいことはありません。

先見力をテーマにした本を書くぐらいだから、渡辺パコという人物には先見力があるに違いない、だったら、大金持ちのはずだ。そう考える人がいても不思議ではありません。もし先見力が、「将来おこることが確実にわかる力」なら、その通りなのでしょう。

しかし、残念ながらこの本を書いている僕は、お金持ちではないし、将来のことがずばりわかる人でもありません。ですから、この本を読んで、「将来が予言のように書いてあったり、自分で予言ができるようになる」と期待しているなら、残念ながらその期待には添えません。先にお断りしておきますが、この本は予言が書いてある本でもなければ、予言の能力がつく本でもありません。人間にとって、将来起こることを十分に予想することは、永遠にできない相談です。もしできるようになれば、そのときはたぶん、人間ではなくなっているのだと思います。ですから、この本をいくら読んでも、たぶん株で儲けることはできません。

この本で僕が読者のみなさんと一緒に考えたいのは、将来おきることの方向や変化の向きを、少しでも確実性高く、想像する方法です。将来何がおきるかをビジュアルに、具体的に見いだすことは、人間にはたぶんできませんが、将来進んでいく道は、右じゃなくて左のほうだとか、舗装路ではなく砂利道、といったことぐらいは、見いだすことができるのではないか、ということを書こうと思っています。

○タイムマシンに乗れたとしても

ここでちょっとだけ脱線します。将来起こることを知ると言うと、タイムマシンが発明されて、実際に未来に行ってみることができれば、一番確実です。タイムマシンは永年の人間の夢です。

タイムマシンをつくるには、四次元空間を自由に飛び交う能力を開発することを意味します。四次元ってなんだっけ？というぐらい、最近はあまり聞かない言葉になってしまいましたが、1970年代ぐらいまでは、四次元の世界とはどういうものか、というような解説書が盛んに出版されていました。人類が宇宙に飛び出す時代になり、宇宙戦艦ヤマトが初めてワープしようかという時代を迎え、サイエンスが輝いていたのだと思います。ゼロ次元は面積も長さも持たない点、一次元が直線、二次元が平面、そして人間は垂直方向にも量を持つ三次元空間に存在する、という説明です。となると、四次元を想像したくなるのは人間の常で、四番目の軸は時間だ、と説明されていました。人間は時間を知っているけれど、時間を自由にすることはできない。人間が四次元生物になれるとしたら、それは、人間が大地から飛び上がれるように、時間を先に進んだり、戻った里が自由にできることなのだ、と。もし本当の先見力があるとしたら、それは四次元生物になったときのことです。でも、実際には、そんなことは人間にはできそうにありません。やはり人間には本当の先見力を持つことなど、できないのです。

それでも、自分だけはタイムマシンに乗ってみたいと思い、ドラえもんに頼もう、と思う人もいるでしょうが、僕はあるときから、タイムマシンに乗りたいという願望がすっかり消えてしまいました。実は、僕は四次元空間を経験したことがあるのです。

10年ぐらい前のある日、夢の中にいた僕は、時間が揺らぐのを経験しました。夢の中で僕は間違いなく、いつものアパートの食卓テーブルにいるのですが、目の前には僕が自分でつくった朝ご飯があります。しかし、そのあさごはんのハムエッグをじっと見ていると、目がかすむような感じがして、ピントを合わせようとすると、ハムエッグはなくなってしまうのです。かと思うと、またハムエッグが現れ、さらにハムエッグは少しずつ減っていき、あとにはソースと黄身と油が少しついた皿だけが残っていました。食べたつもりはないのに、料理が出てきたり食べ終わったりしているのです。ほかも、掃除をしようと思うと、もうきれいに掃除が済んでいたり、すんだと思っているとまだ汚れていたり、なんだか自分の居場所が定まらないのです。

僕の部屋にはなぜかアニメの登場人物のような男がいて、「シュールさん」でした（子ども向けTV番組「ウゴウゴ・ルーガ」に出てきたキャラなのですが、もう覚えている人はいないでしょうか）。シュールさんは僕に、「君は四次元の世界にいるんだよ」と教えてくれました。四次元！僕は四次元の世界ではタイムマシンに乗って、未来に行くことができると思っていたので、シュールさんに聞いてみたのですが、シュールさんは笑ってこういうのです。「君はすこし前までは三次元生物だと思っていたよね。でも君が三次元だと思っていても、実際に自分の力で上空にあがれるのはせいぜい50センチぐらいまでで、それもほんの一瞬だけだ。空間を下に下りるにしても、がんばっても海を10メートルぐらい潜れるだけ。三次元に行けるといっても、せいぜいその程度で、ほとんどは二次元の生き物なんだよ。今君は四次元を移動できるようになったけれど、遠い未来というようなところに行くことができるほどの能力はない。せいぜい、30分ぐらいの時間を前後するだけなんだよ。それも、まだ能力が十分高くないから、行きたいほうに行きたいだけ自由に移動できるわけじゃない。練習すれば、もうちょっとうまく時間を移動できるようになるけどね」。と、実にシュールなことをいうのです。

30分ぐらいの時間を瞬時に行ったり来たりしていたので、ハムエッグが出てきたり消えたり、掃除が済んでいたり、部屋が汚れたままだったりしたのでした。その感覚はなんともクルマ酔いのような不安定さで、芽のピントがあったりずれたりを繰り返していて、気持ちが落ち着かず、猛烈に不安になってきたところで、目が覚めたのでした。すごくおもしろい夢で、暮らしはじめたばかりの彼女に一気に話して笑いあったのですが、正直、もう二度と四次元空間にはいきたくないと思ったのでした。

○見えない未来を、少しは見えるように想像する

ずいぶん脱線してしまいました。夢の話はこれでおしまい、この先は出てきません。

そんな経験もあり、僕はドラえもんが近くにいたとしても、たぶんタイムマシンは欲しがらないと思うようになりました。その代わり、自分の頭で、今ある情報を見極め、将来を想像して、「こっちに行くのではないか、たぶんこっちに向かうはずだ」という方向を見極められるようになりたい。そんなことを考えるようになりました。これが人間にとって、最大限の先見力です。そしてこの本では、そういう力をつけられるとしたら、どんなあたまの使い方をすればいいのか、それを書いてみようと思っています。

○先見力が、未来を見抜いた！

僕は以前、コピーライターとして仕事をしていて、PR誌をつくっていました。比較的硬派なPR誌が多く、クライアントの業界の未来を探るというような企画をよく取り上げました。僕はこの仕事で、先見力とはどんなものか、ずいぶん学ぶことができたと思っています。

1990年ごろ、IT業界（当時は情報処理業とかソフトウェア産業と呼ばれていました）の未来を探るというタイプの企画をたくさんやったのですが、その一環で、グループウェアやテレワーク、マルチメディア、といったテーマでたくさんの取材をしたり、記事を書きました。

最初にグループウェアという言葉を聞いたときは、LOTUS NOTESが英語版のver.1.0というようなころで、初めて見せてもらったときには、なんのためのソフトウェアなのか、うまく想像できませんでした。しかし、グループウェアが世界を変えるのだと、取材したコンセプターや大学の気鋭の研究者はいうのです。会社に出社しなくても、電話でいちいち連絡を取らなくても、各自がノートPCを持ち歩き、会社のサーバにアクセスし、NOTESの情報をとりさえすれば、会社のメンバーがどんな行動をとっていて、どんな問題を抱えていて、どのように解決しようとしているのか、すべて手に取るようにわかる。どこにいても、どの場がグループでの仕事の場になる、と話してくれました。

実際に大手企業の情報研究所に行き、離れたところにいるメンバーとの会議を支援するシステムを見せてもらったこともあります。そこでは、東京と大阪に円卓の会議室があり、双方のメンバーがまるで近くにいるかのような感覚で会議ができるというのです。デスクの前には各自のモニターがあり、部屋の正面には大型のプロジェクタで、発言者のPCが映るようになっている。発言者は自分の手元のPCを操作しながら説明すれば、音声とPCの画面、それに画面上のホワイトボード、そして遠隔地の同僚の映像と音声を身ながら、会議が進められていました。これが普及すれば、パソコンさえあれば、どこにいてもその場で会議ができるし、原稿や企画書などのアウトプットも簡単にメンバーに渡せる、しかもペーパーレスだ!とその未来的な感覚に、衝撃を受けたことを覚えています。

当時僕は、自分がほんの下っ端のコピーライターだと思っていたので、自分がそれほど先端的な情報にアクセスしているという実感がありませんでした。ちょっとした取材者なら、この程度の情報なら簡単にアクセスしているのだろう思っていたのです。しかし、それは誤解でした。僕が見ていたのは、15年後の未来だったのです。

実際、そのころ見た「未来」は、今、ようやく普通の人のものになりつつある状況です。量販店に行けばPC用カメラが数千円で売られていて、ひとり1台のパソコンがあたりまえです。インターネットも高速になり、音声と動画、それに自分がつくったパワーポイントをみなにその場で配布することもできるようになりました。それでも、今現在では、それを実際にやっている人はまだ少数派で、「もうできるんだよね」という認識がほぼ広まった、というレベルでしょう。実際にビジネスや生活の場であたりまえになるまで、あと数年でしょうか。僕が初めてグループウェアを見てから、15年以上たって、そのころの未来が目の前にやってきたのです。

～次号に続く

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▲先見力強化ノート
渡辺パコ著ビジネス社刊
1300円。7月下旬発売。

▲考え方のつくり方
渡辺パコ著大和書房刊
1400円。7月下旬発売

渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

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