215P 先見力強化ノート(2)

photo by paco .

「先見力強化ノート―論理力を磨いて未来をつかむ!」

渡辺パコ (著)
単行本: 199 p ; サイズ(cm): 19
出版社: ビジネス社 ; ISBN: 4828412093 ; (2005/07)

ついに発売になりました。

発売記念として、理論編をコミトンで公開します。
pacolog!の方もご覧ください、練習用のイシューもアップしています。

▼214P 先見力強化ノート(1) の続き

■コンセプトが先に生まれ、技術がそれを現実にする

当時の取材を通じてわかったことは、実際に社会に具現化するものは、まず最初にコンセプトとして世の中に登場するということです。グループウェアも、コンピュータが人間の知的活動を支援する、というコンセプトが先にあり、それを具体的なプログラムに落とし込んだものが、LOTUS NOTESなどのシステムでした。しかしできたばかりのシステムはまったく不完全で、コンセプトが具現化しているようにはとても見えませんでした。

当時、話を伺った人たちの口からは、「数年すれば、こういうこともあたりまえになる」という言葉が語られていたので、僕もそのように原稿に書き、数年すればおもしろくなるなとわくわくしたのですが、実際には話はそう簡単ではなかったのです。

まず、パソコンが「ひとり1台になる」こと自体、疑わしいと考える人が圧倒的でした。効果だったし、それほど小型化できるとも思えなかったし、性能も不十分でした。しかし取材した識者たちは「パソコンはパーソナルなものになるし、安くなり、高性能化する」と自信を持っていっていました。そのことの本当の意味を実感し始めるのが、10年近く先のことです。

しかしコンセプトが魅力的で、多くの先端的な研究者やエンジニアの心をとらえることができれば、道のりが多くても、少しずつコンセプトに近づき、やがては実現するということを、このころ、時間の経過とともに実感することができました。

世の中には、未来を本気で見ようとしている人がいる。そしてその人たちは、15年ぐらい先のことを概念化し、その概念を魅力的に表現する力がある。そしてその概念に鏡面下エンジニアが必死に具現化するための開発を行い、それはやがて社会を変えていく。そういう流れが実感できたのでした。

■自分で未来を予想してみる

そのうち、自分にも少しは未来を予測するような仕事が回ってくるようになってきました。「生命保険がわかる本」（実務教育出版）を書いたとき、生命保険は大手生保が勝手にセットした「幕の内弁当」のような商品を買うのではなく、自分で必要な保障を選び、単品を自由に組み合わせ、セレクトし、充実した保障を安く買う時代が来るし、そうしなければならない、と訴えました。この考え方は、本の監修をしてくれた保険の専門家が示唆してくれたことですが、その方向を僕も含めた執筆スタッフが確認し、明快な方向にまとめて、本に仕上げたのでした。その後、時代は少しずつその方向に動き、今は大手生保のセット保険商品も、かなり柔軟に中身をセレクトできるようになってきたようです。「日本の大手生保も経営的に安心とはいえない、外資による買収や合併、損保との垣根がなくなっていく」と行った方向も本に書き、それが実際その通りになっていきました。自分たちが予想し、世に問うたことが、実際にその通りになっていく。この経験が目の前で展開されていくのは、ドキドキする経験でした。

未来は、ていねいに見ると、自信を持って「こうなる」ということができ、実際にそうなることがあるのだという経験は、その後の僕の仕事に大きな影響を与えています。

そのあと、結局本にはならなかったのですが、同じ執筆スタッフで、「マルティメディア」をテーマに本を書いていました。僕は前述のように、情報技術の未来を取材していたので、マルチメディア、つまり文字も画像も映像も自由に扱い、楽しむというコンセプトが実現するのは、たぶん間違いないと思っていました。しかし執筆メンバーはこれに疑いを持っていて、「しょせんメーカーが言っている広告用の打ち上げ花火でしょ」と言い続けていました。僕は彼らを説得するのにありとあらゆる取材の知識を動員し、また自分が実際にパソコンを使った経験などを総動員して、「きっとこうなる」という姿を描いて文章化したのですが、メンバーにはそれが今ひとつわかってもらえなかったようで、ほかのスタッフと隠すタンスが一致せず、執筆プロジェクトは空中分解してしまいました。

しかし、この経験は僕の先見力を磨くという点では、決定的な経験になったのでした。自分が真剣に調べ、気鋭の専門家の見方を理解し、技術的な可能性などをていねいに見ていくと、他の人がどれほど「そんな馬鹿なことがおきるはずがない」と疑おうと、「こうなるに違いない」ということが見えてくるし、それは実際に実現するのだということを学んだのです。

執筆は1995年ごろでしたが、当時のパソコンはまったくだらしない機械で、しょっちゅうフリーズはするし、壊れるし、ソフトのインストールは面倒だしで、ふつうの人が映像や画像を編集する道具にまで性能が上がるとは、とても思えませんでした。また、人のニーズのほうも、「見るだけ」の受け身の姿勢が普通で、「撮ったものを自分で加工する」ニーズを、多くのふつうの生活者が持つようになるなど、あり得ないと思われていたのです。ところが、あれから10年後の今、普通の家庭の主婦がデジカメで写真を撮り、パソコンを使って見栄えをよくして、それをネットオークションに出して売る、ということがまるであたりまえになりました。小学校の広報誌もパソコンとデジカメで編集され、ダイレクトに印刷されています。修学旅行で撮ったビデオは若い教師が編集し、テロップとBGMがついて、保護者のもとに回覧されます。

執筆当時、スタッフが「そんなこと普通の人がするようになるわけがない、子どもか孫の世代のことだ」と言い張るので、僕のアグレッシブな予想をずいぶん低めに修正していたのですが、実際におきたことは僕の予想を上回るすごさでした。

■自分で予想し、それがどうなるかを検証する

先見力の基本は、自分で未来を想定し、その後を見続ける経験を積むことです。やってみて、その通りになる経験がひとつでもできれば、未来を読むことは不可能ではないし、それは「ばくち的な予想」ではなく、先を見極める現実的な能力なのだということに気がつくでしょう。

当たりはずれを目的にした「予想」や「予言」だけでは、先見力はつきません。なんとか自分で未来をとらえるのだと思い、調べ、人に聞き、分析し、現状をつぶさに見る、といったこをやっていけば、ある程度の未来を知ることができます。それが、この本で考えていきたい「先見力」の中身なのです。

■株式市場の専門家も「大もうけ」はできない

賭け事やスポーツが好きな人なら、勝負の行方を予想するということは、無意識にやっているでしょう。株に興味がある人も同様です。もし先見力が、賭け事に使えるなら、やはり大もうけできるでしょうが、残念がならが、僕がこの本でお話しする先見力は、賭け事に使えるようなものではありません。

僕は賭け事は好きではないのですが、ビジネスには興味があり、株の動きは気になります。仕事柄、さまざまなビジネスパースンと知り合いになるので、金融系の人、特に投資したくの担当者など、直接株式市場に投資する仕事をしている人に、よく同じ質問をします。「会社のカネで投資する仕事をしていますが、自分のお金で投資して、儲ける自信がありますか？」すると、たいていはこう答えます。「20～30年ぐらいの長期スパンで投資して、株式市場の平均成長率を多少上回るパフォーマンスをあげることができると思うけれど、短期的に確実に儲けることはできないでしょうね」。

市場のことはよく知っているし、これは儲かる！と思う株もある、実際にその通り儲けたこともある。でも同時に予想したものがはずれて損をすることも多くて、出っ張りとへっこみをならせば、やはり平均値プラスアルファぐらいに落ち着くぐらいだろう、ということでした。「もちろん、天才的な相場師と言われるような人は、勝ち続けられるのかもしれないけれど」と付け加えるのです。

日々市場を相手にしている専門家が市場を研究し、情報を十分得てもこの程度なら、やはり自分だけが、将来のマーケットの動きをつかむことなど、やはり無理なのです。もちろん、株にせよ競馬にせよ、天才的に勘の働く人はいるでしょう。でもこの本はそういう人になるための者ではないし、凡人が天才のマネをしてもやけどをするだけです。そして実施には、ある時期天才的相場師といわれた多くの人が、その後、没落するニュースもしばしばで、もし、成功した相場師がいるとしたら、それは儲けた後の引き際が美しく、あとは「市場の成長なり」で納得しているからだと思います。

■賭け事や市場のしくみと先見力

その一方で、企業家は大富豪になり、裕福な生涯をまっとうする人もいます。株に投資するより、賭け事をするより、自分で起業する、自分が入った会社を成長させるなどしたほうが、儲かる確率はずっと高いのです。

ではなぜ、株式市場や賭け事では儲からないのでしょうか。

まず、賭け事ですが、これは簡単です。競馬にしても宝くじにしても、いわゆるギャンブルには胴元（カジノの運営者）がいます。ギャンブルは、すべての賭け金の合計と、賭けに買った人に払われる金額の合計は、必ず賭け金のほうが多くなるようになっています。つまり胴元が必ず先に儲けをとる。ということは、一度は万馬券をつかんだとしても、賭けをやり続ければ、取り分は確率的に平均化されていくのは当然のことです。続けていけば、払った賭け金より、受け取る賞金が勝ることは絶対にありません。これを期待値といい、多くの人は中学～高校の数学で勉強しているはずです。数学は役に立つ教科なんですよ。もちろん、確率的に決まる数値なので、中には平均値＝期待値より多くの賞金を受け取っている人もいるでしょう。しかしその賞金の合計が胴元の取り分の合計を上回って、自分がかけた金より増えるのは、あり得ないぐらい運がいい人です。当然逆にかけた金を取り返せない人が圧倒的なのです。

同じ賭け事でも、純粋に確率的に勝ち負けが決まっているのが宝くじ。勝ちそうな候補ぐらいは絞り込めるという意味で、競馬や競輪、競艇、TOTO（スポーツくじ）は状況分析の要素が多少はいるでしょう。つまり多少は先見力の有無が影響するでしょうが、胴元の取り分が大きいこともあって、実際に勝てることはまずないでしょう。
これに対して、株式など市場などに投資する方法は、胴元の取り分が圧倒的に少ないので、パフォーマンスを上げやすくなります。しかし胴元に近い立場の証券会社に払う手数料があるので、それらを差し引いてもさらに投資金額を上回るパフォーマンスを上げるのは、かなり難しいといえます。

実際のところ、保険会社などの金融機関は、集めた保険料を株式投資で資産運用を行うことは普通に行われていますが、競馬に投じることはありえません。それは競馬がギャンブルだからではなく、胴元がとりすぎるので、期待値が低すぎるから、というのがひとつの理由になっているのです（もちろん、それだけが理由ではありません）。

以上、ざっと株式市場と賭け事の話をしてみましたが、この話は、厳密に言うと「先見力がこれらに応用できない」という話ではなく、「もともと勝てる可能性が低いので、先見力を使っても、期待するような結果は得られない」ということでです。先見力があれば、株にしても競馬にしても、多少はよい影響があるかもしれませんが、かなり専門的な分析をしても株式市場では勝てず（未来を見ることができず）、ギャンブルでは原理的に期待値が低い、というのが理由です。

……次号に続く

　

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▲先見力強化ノート
渡辺パコ著ビジネス社刊
1300円。

▲考え方のつくり方
渡辺パコ著大和書房刊
1400円。

渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

mail:paco@suizockanbunko.com