217P 先見力強化ノート(4)

photo by paco .

「先見力強化ノート―論理力を磨いて未来をつかむ!」

渡辺パコ (著)
単行本: 199 p ; サイズ(cm): 19
出版社: ビジネス社 ; ISBN: 4828412093 ; (2005/07)

ついに発売になりました。

発売記念として、理論編をコミトンで公開します。
pacolog!の方もご覧ください、練習用のイシューもアップしています。

▼216P 先見力強化ノート(3) の続き

■第2章先見力があるとどういいの？
～先見力がゆとりを生み、未来を拓く

先見力は株の投資や賭け事に勝つためには使えない、という話をしました。しかし本当のことを言えば、賭け事はともかく、投資の効果を高めるためには使えます。ちゃんと役に立つのですが、先見力というものの中身を安易に考えてほしくないので、あえて「使えない」という言い方をしました。

先見力があれば、将来をある程度見通すことができます。10年前に、パソコンがどの企業でも、どの家庭でもあたりまえに使われるようになり、ごく普通のビジネスパースンがグループウェアでスケジュール管理や、仕事の分担などをやりとりしながら業務が進むと気がついていた人がいれば、その分野の会社の株を買っておけば、結果的に大もうけできたはずです。しかし、先を見通していた人たちが、その先見力を使って大もうけしたかというと、実際にはそうではありません。その理由を考えてみましょう。

第一には、先見力では「情報技術の進歩でグループワークを支援するシステム（パソコンやグループウェアなど）が広く使われるようになり、仕事のやり方が変わる」ということまでは、わかっていました。このあたりまでは、僕が取材した専門家の意見を注意深く聞けば、僕のようなインタビューアにも理解できたのです。しかし先見力が教えてくれるのは「この分野が伸びる」というぐらいの範囲までで、「●●会社がそれを実現して急成長する」と言うところまでは、とても見抜くことはできません。せいぜいできるのは、IT業界で先端的なことをやっているA、B、Cの3社のうちのいずれかが、この分野でも成功できるだろう、というぐらいのところまでです。

実際にこの情報を使って、IT業界のある企業に投資して、結果的にリターンを得られるかというと、なかなかそうはいかないのです。現実に起きたことを考えると、10年前にこの業界でトップだったのはNECやIBM、日立といったエレクトロニクスメーカーでした。ソフトウェアが重要になると言われていたものの、当時は「ソフトはハードウェアのおまけ」「日本人はソフトウェア開発は弱い」「ソフトウェアは技術者不足や違法コピーで、業界として将来性が不透明」といった理解が普通でした。もちろん、このような一般論をさらに吟味して、「でもこの企業が主導権を握るだろう」と言うところまでわかればいいのですが、企業単位の話になると、その企業の内部情報が少ないこと、ちょっとした技術の変化で勝ち組と負け組が簡単に入れ替わるといったことがおきて、企業単位の成功までは、先見力で見抜くことはかなり難しいのです。

たとえば、今日本でグループウェアというと、独自の戦略で伸びたサイボウズが大きな評価を得ていますが、非大手から、このような企業が出てくるということまではわかりませんでした。もう少し詳しく言えば、非大手の企業からデファクトをとる企業が出てくるというところまではわかっていたのですが、では当時つぎつぎと生まれたベンチャー企業のうち、どこが勝ち残るかと言うところまでは、とても把握することができませんでした。

先見力は、ビジネスを有利に進めるためのある種の情報は提供してくれるものの、その情報からだけでは、利益に直結する情報を得ることは難しいのです。

■先見力のある人が金儲けに興味があるとは限らない

第二に、先見力を持った人の興味や能力の問題があります。「将来はこういう事態が起こる」と見抜ける人は、先を見抜くことそのものがおもしろいと思っていて、実際にそれを使って株を買おうというような発想はしない人が多いという性質もあります。

僕自身、将来はこうなるとおおむねわかっていたことはあっても、その知識を使って株を買おうとは思いませんでした。株を買うだけの余剰資金がなかったというのも事実ですが、お金があったとしても、おそらく大儲けできるほどの額の株は買わなかったでしょう。

この背景には、先が読めれば読めるほど、不確実な部分もまた見えてくる、という特性があります。「たぶんこういうわけで、こんな結果になるはずだ」とわかっても、同時に「もしかしたら状況がこう変わって、まったく違う結果になるかもしれない」とわかってしまうので、よけいに思い切った投資などできなくなってしまうのです。結果的に未来が見えても、それを無条件に受け入れて、そうし先を決めるというメンタリティは、かえってなくなってしまうのです。難しさがわかるので、よけいに安易な投資ができなくなる、ということです。

第三には、わかっていて、投資する力もある人は、投資するより、自分で事業をやってしまいます。こういう人たちは、「先見力を使って、投資で儲けた」のではなく、実際のとろは、ビジネスを創業して、それを成長させて、大富豪になった」と言われることが多く、見た目は先見力のある人というより、優れた経営者と見なされるのです。

■自分で事業を興すなら、先見力を活かす余地が大きい

ここまで見てきたとおり、先見力を、株の投資先探しの材料として使おうとしても、なかなかうまくいかないことがわかります。では仕事には行かせないのかというと、そんなことはありません。実は、前述の3つめの使い方が、一番意味のある使い方なのです。

先見力を使って、「この領域がこれから伸びる、これからきっとこうなる」という未来を描きます。その上で、その未来を実現するための事業を、自ら興すか、そのプランを企業に提案して、ともに実現するか、いずれかの方法をとればいいのです。

前述のサイボウズも、「組織運営をITを使って支援する事業は、将来有望」と考え、それができるプレイヤーとして、メーカーやソフト開発会社などを考え、さらに一番必要としているのは、一人一人の責任が重い中小・中堅企業と絞り込み、安価で導入に手間がいらないASP方式というビジネスを選んだのだと考えられます。

「きっとこうなる」という未来を読み、それを実現するための事業を興せば、まさに「自分で描いた未来を、自分の力で実現する」ことになり、もっとも未来を実現する可能性が高い方法なのです。

この方法のいいところは、ほかにもあります。「この分野が伸びる」と言うところまでわかっても、どの企業のどのやり方が一番伸びるかまではわからないと説明しました。しかし実際自分で事業化すれば、問題が起きたときに、もともと自分が描いた未来像を少しずつ修正しながら、可能性を高めるという応用ができます。もともと不確実な未来をなんとか見ようとしているものなので、ある時点で「こうなる!」と見つかったものにずっと固執するのではなく、「ゴールはこうだろうけれど、手段はちょっと違うかも」と気がついたところから、修正することで、可能性を高めることができるのです。先見力が十分高ければ、目標をはずさずにすむし、修正も本質をはずさずにできるでしょう。その結果、先見力がないか、借り物の先見性で起業する人より、自ら先見力を発揮して事業を興す人のほうが、成功のパワーがある、ということができるのです。

先見力は、金儲けに直結するわけではないものの、お金を稼ぐときに重要な役割を果たすこともまた事実です。

■先見力は、ライフデザインに不可欠
～人のせいにせず、自分の意志で生きるために

先見力をつかってビジネスで成功するには、まずビジネスの能力そのものが高い必要があります。クルマの運転ができない人に、カーナビをプレゼントしても、使えないというのに似ているかもしれません。この場合のビジネスとは、大小を問わず、企業を経営するという意味で、今の時代の中で、社員やパートタイマーを雇い、事業の資源をマネージしながら成果を上げていくのは、かなりの基の知識と能力が必要で、「先を見る力」はその力をアシストする能力のひとつに過ぎません。

一方、多くの人にとって、先見力は、個人の生活を自分の意志になるべく忠実に進めていくための力としては、十分有効です。僕は、自分の意志を軸に自分らしく生きるための方法を「ライフデザイン」と呼んでいて、これまでも本を書いたり*、ワークショップなどを開いてきました。

自分の意志を持ち、それに従って生きるというのは、僕を含めて多くの人が「そんなふうにできたらいいね」と考えることで、ひとつの理想です。しかし実際には自分の考えの通りに生きることなど、僕も含めて、やりきることはかなり困難です。どうしても週に事情や時代の変化に合わせなければならないことが、たくさん出てくるのです。そんなときに、「時代が悪い」とか「また自分には逆風が吹いている」と考えると、自分の状況の問題を時代や周囲の誰かの性にしていることになります。しかし誰かのせいにしている限り、「自分の意志で決めて、その結果自分はこうなっている」という実感が持てないものです。これではいつまでたっても自分の人生を自分の足で歩いている実感が持てません。

すべてについて自分の意志のままに生きることは実際のところできませんが、ある時点で自分がなぜ自分の意志のままにはなっていないのか、その状況を理解するとはできます。そしてその状況の中で、最大限自分の意志をはっきりさせ、それに従って行動することまでは可能です。

＊「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」（JMAM）

■先見力があれば、自分が活躍できる場所がわかる

たとえば、僕自身は音楽が好きで、自分の音楽的なセンスを活かして仕事ができるといいのに、という考えを持っています。しかし自分の音楽的センスは、今の音楽のビジネスの動きの中ではほとんど活かせそうにないということも、わかります。これは、音楽とビジネスが置かれている状況とその変化を見れば、つかめることです。というより、本当は、自分の音楽の理解が、時代の中で評価されないという事実を見て、その理由を考えてみると、音楽業界の動きとリンクしていないことがわかるのです。簡単に言えば、僕が音楽の分野で考えられることは、音楽業界の動きを先取りすることができないとわかるのです。先取りができなければその分野で評価されたり、役割を果たすことができないのです。

一方、ライフデザインについて相談に乗り、何かを示唆するとか、論理思考を教えるという分野では、今の世の中にないものを提供することができ、それによって次の時代に来るものを先取りすることができるのです。

ライフデザインの分野で僕が最近勧めているのは、30～40代の仕事現役世代が、仕事の場所と時間の自由を得て、希望するなら田舎に住み、自然環境のよいところで生活し、子育てしながら、仕事をきっちりやっていくというスタイルです。

こういう話をすると、今は、「そんなことはできるようになるはずがない」と多くの人が言いますが、考えてみてください。僕らの祖父の時代は、多くの人が地方に住み、今のように大都市に集まって生活しているわけではありませんでした。高度成長期に入るではサラリーマンは浮き草稼業といわれ、あまりまともな職業とは思われていなかったのです。多くの人が家業の「店」の2階や、すぐ近くに住み、家族ぐるみで働いていました。僕らの親の世代になると、会社で働くという生活があたりまえになり、職場と住居は離れて、通勤に1時間以上かかるのがあたりまえになりました。そのころは休みは日曜日だけで土曜日は「半ドン」と言われていたのです。今は今は週休2日があたりまえになり、週末にスキーやサーフィンのために1泊旅行に行ったり、年に1～2度海外旅行に行くことも普通のことです。時代はどんどん変わっていて、その変る方向がしっかり見えれば、「これからはこうなる」と自信を持つことができるし、そういう発言をしたとき、周囲の人たちが、「なるほどそういうこともあるかもしれない」と思ってくれるものなのです。僕にはライフデザインの分野では人より先を見る力が少しあり、音楽の分野ではそれがなかったということです。

自分が時代の先が見えていれば、自分がこれからどの分野で活動できそうか、どの分野で活動すれば自分の能力が活かせるかがわかってきます。自分が先取りできない分野も見えてきます。先が見えれば自分の力が発揮できる場所がわかってくるので、意志が実現できる場所で活動し、評価を得ることができるのです。

……次号に続く

　

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▲先見力強化ノート
渡辺パコ著ビジネス社刊
1300円。

▲考え方のつくり方
渡辺パコ著大和書房刊
1400円。

渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

mail:paco@suizockanbunko.com