218P 先見力強化ノート(5)

photo by paco .

「先見力強化ノート―論理力を磨いて未来をつかむ!」

渡辺パコ (著)
単行本: 199 p ; サイズ(cm): 19
出版社: ビジネス社 ; ISBN: 4828412093 ; (2005/07)

ついに発売になりました。

発売記念として、理論編をコミトンで公開します。
pacolog!の方もご覧ください、練習用のイシューもアップしています。

▼217P 先見力強化ノート(4) の続き

■リスクヘッジとしての利用が一番即効性が高い

もうひとつのメリットが、事前に陥りそうな落とし穴を発見しやすいという点があります。今は好調な分野でも、いつまでも好調であるとは限りません。時代はどんどん変わり、好調・不調の波が激しく起きます。先を見る力があれば、今は好調でも、程なく不調になるということがわかってくるので、不調の波を避けることができるのです。

もちろん実際には好調の波にいつも乗り、不調の波はかぶらない、というわけには行きません。先が見えても、よくない波がくるくる、とわかっていてもかぶってしまうこともあるのです。というより、多くの場合そうやって失敗してしまうのが人間で、僕自身のそうやって好調・不調の波をかぶってきました。しかし、先を見ようとしていると、今不調だということの理由が見えてきます。よくない状況になりそうだから、あれこれ手を打ってみた。でも思うようにやったことに効果が出なかった。だから今、不調に陥ってしまったけど、今不調に陥っていること自体は、読みが誤っていたわけじゃない、という感覚が持てるのです。このように考えられれば、よくない状況にもまれながらも、自分を見失わずにいられるし、その中でも先を見て、自分の行動をかようとしていけば、いずれ抜け出せる可能性が高まります。先が見えずにもがくだけでは、もしうまくはい上がれても、それが自分の力だとは思えず、偶然落ち込み、偶然上がった、という他人任せの感覚を持ってしまうでしょう。自分の意志を、人生の中でどれだけ介在させることができるかが、自分らしく生きることの重要な条件であり、先見力はこのための大きなパワーになるのです。

■情報をとるだけの時代が終わり、深い理解が必要になった

今、英語を学ぶ人がたくさんいるのですが、日本人はなかなか英語が話せるようになりません。その理由のひとつは、英語を学ぶメソッド（方法論）の問題です。話し、伝えるという目的で英語を教えているのではなく、英語で書かれてる内容を読み取り、日本人同士でそれを理解したり応用することを目的に、教えていたので、結果的に、読み取ることはできても、伝えたり、相手の言葉の背景を深く理解するという能力は身に付かなかったのです。

しかし英語がうまくならない理由はそれだけではありません。英語を使って「伝え」「聞く」ことの目的や、内容が薄っぺらで、目的に乏しいために、何を話したらいいのか、動機があまりないのです。欧米に追いつけ追い越せという時代なら、技術ややり方の説明が理解できれば十分でした。しかし今の時代は、「これを教えてほしい」という直接的な目的はすでに失われつつあり、コミュニケーションを通じてお互いの違いを理解し、違いの中から共通点を見いだし、相互に協力して何かを作り上げていく問いコラボレーションが必要な時代です。

ビジネスの世界でも、海外のパートナーとの関係は協創的になっていて、日本のことは日本に任せよう、あるいは日本から海外に出て行くときも、相手のことは相手に任せようという考え方をとることが普通になってきました。とはいえ、何もコミュニケートを採らずに任せてしまいえば、それぞれの思惑が先行して、共通の目的を実現することはできません。バックグラウンドも目的も違う外国の人間同士がきちんと話し合うためには、自分が知りたい技術やノウハウを「教えてもらう」「聞き出す」というようなコミュニケーションでは無理なのです。

プライベートでも同じように、深いコミュニケーションをとりたいという気持ちが強くなってきています。海外旅行も日常的になり、ただ名所旧跡を訪ねるだけの旅は卒業したと感じる人が増えています。日本にも多くの外国人が暮らすようになり、日常的に関係が生まれるようになりました。こういう中で、もっと外国人と深くつきあいたいという気持ちが生まれています。よく、英語の力をつけたいなら、「ネイティブの恋人をつくれ」と言いますが、これは、日常会話を超えて、○○人としての背景や文化、考え方までも含めたコミュニケーションををすることで、本当の英語の力がつく、ということを意味しています。つまり、コミュニケーション能力を高めようと思ったときに、英語など語学だけに頼った方法では、限界があるのです。

■外国人と深い話をするために先見力が必要

僕の友人で、南アフリカに旅行に行き、たまたま低所得者の黒人の家に行ったら、そこのあるじのおじいさんが「ウサマ・ビンラディンがおまえのうちに逃げてきたらどうする？」と聞かれて、面食らったそうです。2001年の9.11同時多発テロ以後、米国は「キリスト教文明対イスラム文明」になぞられるような戦争を続けていますが、そういう中で、日本は米国よりの立場をとり続けています。しかし世界には逆の立場をとる人たちもいる。そういう人にいきなり質問を受けたら、しっかりした考えがないと、答えることさえできません。

また別の友人の話。調査で中国東北部、旧満州に行き、現地の中国人にガイドを頼みました。現地では旅行会社の現地スタッフと通訳、ガイドなど数人が歓迎のディナーを開いてくれたのですが、にこやかなわりに、どうも雰囲気がよくない。通訳も、ときどき訳してくれない会話ある。ちょっとやな感じ、と思いながらも、食事を終えて、宿に着いてから通訳に事情を聞くと「この地域の人たちの中には、日本人と見ると、いろいろ文句を言いたい人もいるんですよ。知っての通り、かつて日本人は、ここでよくないこともだいぶやったからね」とのこと。「それとも、そういう文句も逐一通訳したほうがよかった？」ちらっとそういうことかなと思ってはいたので、あえて通訳してもらわなくてほっとしたそうです。もし通訳を通じて「日本人がかつて満州でこんなひどいことをした」と攻められたら、あなたならどう話しますか？
自分には関係ないというのか、謝るのか、将来に向けてこうしたいというのか。

別の話。アラブ人は日本人に親近感を持っている人が多かったのですが、米国と一緒になってイラクに自衛隊を送っていることから、日本人の評判はかなり悪くなっています。「なんで日本は自衛隊をイラクに送るんだ？日本企業がやってきてビジネスをやったり仕事を出してくれるのは歓迎するけど、迷彩服はいらないよ」と言われたらどう答えるか。

ここで挙げた例は、ちょっと過激な例ですが、外国人はこういう話しを初対面の人の前でどんどんしてくることが珍しくないのです。こういった会話の中で、きちんと話しをするには、現状をしっかり理解し、そこから将来どんなことがおきるのか、そして自分はどう考えるのか、といった考えを持っている必要があります。自分の考え方や自分なりの未来像が描けていること、つまり先見力があれば、こういう場面で何を伝えればいいか、そのネタをちゃんと用意できます。

もちろん、どんな話題が出るかわかりませんから、あらゆることに答えられる必要はないし、無理なことです。しかし、これから自分の身の回りのことから、世界のことのなかで、主要な事柄については、ある程度自分の考えを持てるようにしておくことが、世界とうまくつきあっていくときの基礎力になります。

僕は、こういう力を、これからの時代に必要な「新しい教養」だと考えています。教養というと、どことなく博物館的な、「なくてもいいけど、あるとちょっとセレブっぽいもの」といった雰囲気がありますが、これからの時代は、現状の理解をベースにした先見力は、個人の価値を決める重要な要素になると考えています。先見力は、教養の中心に位置する力なのです。

先見力だけがあり、語学の力がなければ、コミュニケーションはスムーズではないでしょうが、通訳付きでも話したいことがあれば、伝えてもらうことができます。語学が堪能でも、話す内容がなければ、深い話を通じて、理解し合うことはできません。先見力は世界の人とつきあうための、基礎力でもあるのです。

■第3章先見力を身につける方法1
～先を見ている人と「出会う」

■気鋭の論客を探す

ここから、第3章、4章では、先見力を身につけるための方法を、もう少し具体的に紹介していきます。

先見力を身につける方法の第一は、それぞれの分野で先を見ている人を見つけ、意識的に、かつ継続的にワッチ（watch）していくことです。ワッチする対象として最初に見ておきたいのが、「気鋭の論客」です。といってもいわゆる論壇のようなところで難しそうな議論をしている人とは限りません。それぞれの分野で積極的に発言している人の中で、「先を見ているなあ」と思える人なのですが、以下のような条件に当てはまる人といえます。

(1)メディアで積極的に発言している人

→メディアに登場するといっても、テレビでの露出度の高すぎる人ははずして
ください。バラエティ番組によく出る人もパス。深夜の討論番組に出すぎてい
る人もパス。ある程度専門的な情報をまじめに提供している番組に出ている人、
また雑誌で長めのインタビュー（2ページ以上）で登場する人などから探すと
いいでしょう。また異分野の雑誌に登場する人もねらい目。若い女性向けの雑
誌に登場する男性経営者などです。最初は、趣味でも自分の仕事関係でも、興
味のある分野の中で探すことをおすすめします。

(2)未来について発言している人、新しいことをやっている人

→これからこうなる、という趣旨の発言を公的な場所で積極的にしようとする
人は、自分なりに未来を見極めようとしている人です。誰がいつの時期に何を
言っていたか、覚えておくなりメモしておくといいでしょう。自分が興味があ
る分野なら、「本当にそんなふうになるのかな？」と、意外に感じぐらいの発
言をする人がベスト。

(3)30～40代がねらい目

→経営者でも研究者（学者）でも、30～40代はまだなかなか注目が集まらない
もの。実績も少なく、積極的に「こうなる」という発言を控える年代でもあり
ます。その中であえて語っているタイプを見つけることができるとベスト。も
ちろん、もっとした、もっと上の世代でも、未来がちゃんと見えている人もた
くさんいますが。

(4)意外性があるが、自分が納得できる意見を言っている人

→未来について「本当にそうなるの？」と意外性のあることを語っていること
語っていることが重要。ありきたりでないことをあえていうには、勇気と自分
なりの理由が必要で、よく考えている人だからです。また、その人の語る未来
が、自分にとって納得感があるか、または自分にとって望ましいと思うことを
話している人がベスト。やはり「この人いいな」「おもしろいな」と思えない
と、ワッチする軸になりません。逆に正反対の立場の人も見ておくといいの
ですが、これはけっこう高度なワザです。

……次号に続く

　

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▲先見力強化ノート
渡辺パコ著ビジネス社刊
1300円。

▲考え方のつくり方
渡辺パコ著大和書房刊
1400円。

渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

mail:paco@suizockanbunko.com