219P 先見力強化ノート(6)

photo by paco .

「先見力強化ノート―論理力を磨いて未来をつかむ!」

渡辺パコ (著)
単行本: 199 p ; サイズ(cm): 19
出版社: ビジネス社 ; ISBN: 4828412093 ; (2005/07)

ついに発売になりました。

発売記念として、理論編をコミトンで公開します。
pacolog!の方もご覧ください、練習用のイシューもアップしています。

▼218P 先見力強化ノート(5) の続き

■論客の意見を長期間観察する

僕は20代後半から30代前半にかけて、何人かの「気鋭の論客」に出合うことができました。それも、直接会う機会が持てたことは、とても幸運でした。

今は東京大学にいる西垣徹さん、慶應SFC（周南藤沢キャンパス）の金子郁容さん。当時、僕は経営やIT関係の近未来について、主にPR誌などの媒体に呼ばれて、取材をして原稿を書く仕事をしていたのですが、その一環で彼らに直接取材をしたり、取材テープを渡されてそこから原稿を書くと言った機会に恵まれました。

その中で、彼らはビジネス未来やITの未来について積極的に発言していて、たとえばグループウェアだとか、テレワークだとか、フラットな組織、個人ごとに仕事の自己申告をして、その結果を氷解して組織を運営するといった考え方を詳しく語ってくれました。当時はまだ、日本企業の多くは年功序列や学閥が組織の原理になっていて、ヒエラルキーを登っていくことがワーカーの「出世」のイメージだった時代です。言葉では「日本でも年功序列の習慣は維持できない」などの意見はあったものの、多くの人の実感は、「日本企業の実態はそう簡単に変らない」という否定的なものでした。

しかし、僕は彼らの発言を身近に、直接聞くことができたこと、そして僕自身の考えをぶつけて質問に答えてもらう機会があったことで、彼らの考えが単なる希望ではなく、はっきりした理由を持っていてその理由自体が、僕にとっても納得できるものだったことをつうじて、彼らの発言がそう遠くない未来に実現することが、かなりしっかり実感できていたのです。

その後、彼らはそれぞれの専門分野での評価を高めていき、当時はわりと気軽に取材に応じてもらえた人も、今ではなかなかお願いしにくいぐらいの立場になっていきました。それも、彼らが当時から見据えていた未来が、そのまま時間の経過とともに実際に社会の中でおきてきたという実績があるからでしょう。たとえば、当時僕が取材したものに、グループウェアがありました。ロータス社のノーツがまだバージョン1だったころ、日本に入り立てのノーツが動いているPCを見ることができたのですが、当時は「これはいったい何なんだ？」というぐらい、完成度が低いものでした。しかしコンセプトを聞いていくと、たしかにグループウェアが仕事のやり方を変えるということが実感でき、そうと負うない将来、誰もがパソコンを使いこなし、グループウェアで情報をやりとして仕事を進める時代になるということが理解できたのです。

そのころ、僕が「これからはひとり1台パソコンを持つようになり、みんながメールやグループウェアを使うようになるよ」と友人などに話しても、誰も納得してくれなかったのですが、10年ほど立った今、それは実際に世の中に実現しています。

「この人には先が見えているはずだ」と思える人に出会い、その人の考えが少しずつ実現するのを見ていくことができれば、どんなタイプの発言なら将来を見越しているのか、つまり先見力があるのかを、自分の実感としてつかむことができます。自分が興味がある分野で先見力のある人を何人か押さえておけば、自分自身の先見力がパーフェクトでなくても、その人の考えを借りながら、自分の先見力を高めることができます。また自分自身で「きっと将来はこうなる」と考えたことも、「同じことを言っている人が他にもいて、その人は評価されている」とわかれば、自信を持つことができます。人の先見力をうまく借りながら、自分の先見力を高めるという方法も、あってよいのです。

■インターネットやメディアで出合う

前節で紹介したような人として、どんな人がいるかを知るためには、まずメディアから情報をとるのが一番です。前節の最初にも紹介したとおり、雑誌やTVの専門番組に登場する人の中から、これはと思う人を覚えておくというのはよい方法です。

僕はここ数年、パソコンでTVを見ているのですが、パソコンだとプレイバック機能があるので、だらっと見ていて「この人おもしろそう！」と思ったり、名前が出たら、すかさずプレイバックして名前を確認するということをしています。フルネームでなくても、名前の一部やその人が語るキーワードの一部でもメモすることができれば、あとで探し出すことが容易になります。たとえば、「インドの綿花農家を支援している女性で、ピープル何とかという会社をやっていて」というぐらいで十分探すことができるのです。

探すときにはインターネットが簡単で、「インド」「綿」「農家」「ピープル」というキーワードを半角スペースを空けて入力して検索すれば、探し出せる可能性が結構あるのが、今の時代のすばらしさです。情報へのアクセスが飛躍的に容易になりました。

こうして人物が特定できたら、ネットを検索しつつ、その人の情報を当たっていくと、考え方をつかむことができるでしょう。仕事であれ、趣味であれ、になっている社会問題であれ、こんな形で、「この人はおもしろそう」という人のリストを持っておくと、その積み重ねが自分なりの先見力につながっていくのです。

■鋭い人との出会いの場を探す

TVや雑誌などのメディアやインターネットだけでなく、直接、「先を見ている人」に会う機会に出かけてみるという方法もあります。ありがたいことに、今日本ではあちこちで講演会やセミナー、ワークショップなどが開かれています。日頃からアンテナを広げておけば、「気になるあの人」の話を直接聞く機会を見つけることもできます。新聞社や出版社などの無料メールマガジンなどに登録しておくと、イベントがあるときに案内をしてくれますから、利用するといいでしょう。

「この人の話を聞きたい」という直接のお目当てが見つかっていない場合は、いわゆる「異業種交流」の場を利用する方法もあります。僕が継続的に教えている「グロービスマネジメントスクール」でも受講生同士の交流が奨励されていて、講師に指導を受けることよりも、受講生同士、刺激を受けることを高く評価している人も珍しくありません。講師陣も、「未来を見ている火と」といえるのでしょうが、ある意味、講師が魅力的なのはあたりまえで、それより年齢やキャリアが近い受講生が言う言葉のほうが、「自分と同じ立場の人が、こんなに鋭いことをいうなんて」という逆説的な驚きが魅力になっていると言えるかもしれません。

自分より鋭く先を見ている人と出会えそうな場に、積極的に出かけてみるのも、自分自身の先見力を磨くよい方法です。

■押しかけてみる

メディアで見つけたり、講演会で話を聞く機会があったけれど、直接話はできなかった、という場合で、もっとこの人の話が聞きたいと思えるときは、思い切って「直接会いに行く」という方法もあります。

僕の場合、本の読者からメールをもらい、やりとりの末、直接お会いすることもあるし、グロービスマネジメントスクールで受講生として短時間だけおつきあいした方から、あとでメールをもらい、直接会って意見交換したり、ということも珍しくありません。

ここでもインターネットをフルに活用できます。以前だと、名前は知っていても、連絡先がわからないということも多く、本の著者であれば、出版社に電話をして問い合わせるといった方法をとる、などに限られていました。しかし今は、インターネット上に本人の連絡先がおかれていることも珍しくないし、本人の所属する企業や学校の代表のアドレスを見つけることなら、それほど難しくありません。忙しい方でも、電話は事務所のスタッフに任せていても、メールだけは一通り目を通しているという人も多く、うまくすれば本人に直接メールを出すことも十分可能なのです。

うまく連絡先らしきアドレスを押さえることができたら、相手と情報交換ができるように、自分の考えと、相手の考えが以下に近いか、自分にとって興味深いかを書きつづり、相手に関心を持ってもらうことが重要です。なぜ自分がその人に関心を持ったのか、どこに共感しているのか、どんな点について、これからもっと深く知りたいと思っているのか。こういった点がしっかり書けているメールなら、返信したくなるものだし、場合によっては直接会って意見交換したり、話ができる程度に人数のセミナーやワークショップを紹介してくれるかもしれません。ダメモトでもいいので、「ぜひ一度お会いしたい」とお願いしてみるのもひとつの方法です。あっさり断られてしまうかもしれませんが、もともと会えるチャンスの少ない人なのですから、断られたからといってヘコむ必要もありません。やはりダメだったか、とあっさり考え、また次の機会を待ちましょう。

ここで気をつけてほしいことは、もし「直接会いたい」とお願いするなら、自分自身の問題を明確にして、「こういう点について意見を聞きたい」とはっきり言うべきで、「ただ有名人だから合いたい」では、相手も受け入れる気がおきないでしょう。恋愛で相手を口説くときのような気持ちで、自分の思いをぶつけられたとき、「だったら会ってみようかな」という気持ちが起きることを忘れないでください。

　

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▲先見力強化ノート
渡辺パコ著ビジネス社刊
1300円。

▲考え方のつくり方
渡辺パコ著大和書房刊
1400円。

渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

mail:paco@suizockanbunko.com