223 出会い、戦争責任

photo by paco .

先週のイシューは難しかったでしょうか、返信がなかったので、僕の考えていることを書いていきます。

■知恵市場での出会い（イシュー05）

知恵市場を始めてから、実にたくさんの方と出会い、つながりをつくることができました。その中で、僕自身が印象に残っている方との出会いやつながりについて、少し書いてみます。

最初に紹介しなければならないのは、Kuriさんです。Kuriさんが知恵市場に来てくれた当初は、コピーライターとして活躍していて、そのかたわらで架空の料理のレシピを公開するサイトなんかをやっていました。銀座のオフ会で会ったときの印象は、ちっちゃいのに元気がよくて、エネルギーが詰まってる！という感じ。ビジネスはもちろん、環境や生活面にも関心を持って、MLで発言してくれていたので、お願いして[kafe]MLのスタッフをやってもらいました。

その後、まん丸でくりくりした目の男の子を出産、会社と交渉して育児休暇後の時短勤務を認めさせたり、みずからのQOL向上にも積極的でした。自分の生活を豊かにするためには、自分で行動し、勝ち取る、そういう考えがしっかりしていて、これって知恵市場がめざしていることそのものだなあと思いつつ、ときどき相談に乗ったり愚痴を聞いたりしながらの関係が続いています。

知恵市場でのスタッフを終えてから、出産や育児に関するメーリングリスト「子育てワハハ」を立ち上げ、多くの女性たちに情報交換の場を提供し、さらにはそこでビジネスのパートナー（ドイツ在住の日本人女性、Rieさん）も見つけて、ハーブやレメディをドイツから輸入販売するビジネスにまで発展させていきました。このビジネスは、風邪を引いても安易に薬が飲めない、産前産後の女性たちに支持されて、次第にちゃんとしたビジネスに成長しつつあります。またビジネスだけでなく、出産や育児、健康についての幅広い知見が買われて、厚生労働省など公的な機関から呼ばれて委員になる、専門誌で情報発信するなど、個人的なプレゼンスも上がっています。知恵市場で出会った当初ではまったく予想もしなかった展開ですが、そういう個人の成長をみたり、少しは手助けできたりすることのキーステーションとして知恵市場が機能してきました。

Kuriさんも、Rieさんも、ときどきメールをやりとりして情報交換したり、折を見てランチをともにしたりという関係が続いていますが、いい意味で刺激し合える大切な友人になっています。

これからは、知恵市場のメンバーからKuriさんやRieさんに続く人たちがもっと出てきてほしいと思っているし、そのためには、ぜひとも彼女たちからも情報発信してもらいたい口説いているところなのですが、それぞれに多忙だし考えもはっきりもっているので、簡単にはYESといってくれません。でも、これから何かをやりたい人たちにとって、彼らの経験はきっと役立つと思っています。

Prowler7010さんもなかなか知恵市場的な方です。彼は関西在住で、直接会ったことはないのですが、知恵市場MLに最初に来てくれたころはシステム系の仕事をしていました。かなり多忙で、ストレスもためていたようですが、それが家族との関係がぎくしゃくするところにまで発展、かなり悩んだそうです。その困難な状況を、会社を辞め、家業を継ぐという方法で生活重視の方向に転換しました。仕事とは何か、家族とは何か、自分が自分らしくいられるとはどういうことか。自分なりに悩み、考え、出した結論は、収入や名誉ではなく、家族との生活が両立できる仕事と時間だったということです。いまは音楽や英語など、自分の趣味というか、自分を高める目標も持って、自称「おっさん」ながら、イキイキしているのが、ブログからも伝わってきます。QOLを高めるというのは、自分との対話、自分の身近な人との絶え間ない対話の連続です。そういうことを実際にやっている人は、「おっさん」と自称しつつも、小さなことをきっちりていねいに考えるようすは、心が若い証拠ではないかなと思います。

[com2]MLでもときどき発言してくれている"ましゅ"もQOLを上げるチャレンジを積極的に実行している人です。彼を知るひとはみんな「ましゅ」と呼び慣れているので、あえてさん付けはしませんが、ご理解のほどを。で、ましゅはもともと広告プロダクションの売れっ子デザイナーでした。でも、何でも売ればいいのか？　売れてしまってよくないものもあるのではないかと疑問を持ち始め、自分がつくるデザインの代償は「売れた」という指標ではないと考えるようになったといいます。「売れた」という評価ではなく、「かっこいいデザインだ」という評価ではなく、その結果、ありがとうといわれるような仕事をしたい、人を喜ばせたり、楽しませたりする仕事がしたい、と考えるようになり、会社を退職、いまはフリーランスで活躍しています。

Toshiさんの英語のシャワーではマークやウェブのデザインをするとか、「障害者国際交換プログラム　フットルース」にも関わって、納得感のある活動をひとつひとつ積み上げているという段階です。友人もたくさんいて、たとえばそのひとり、クヌギーことクヌギヒサコさんが自主発行している本のミニ雑誌「図書室たき火通信」のデザインも、彼のボランタリーな仕事です。このクヌギさんも、ビジネスガールをやりながら、本を軸にしたQOL向上を狙っているところで、これからが楽しみな知恵市場なひとのひとりです。

他にも、それぞれのポジションで、自分なりのQOL向上をめざしている人が何人もいるのですが、おいおい紹介する機会をつくりたいと思っています。自分のやっていることを話してみたい、それについていろいろ意見を聞いてみたいという方は、ぜひ知恵市場で発信してください。引き続き新サイトでのブログライターを募集中です。

■戦争責任について（イシュー06）

もうひとつのイシューは、戦争責任の話でした。さすがにこれは難しかったですね。知恵市場メンバーのikeoさんがブログでコメントしてくれました、ありがとうございます。

pacolog!での僕とXさんの議論を読んでもらった方は、どんな感想を持ったでしょうか。何を書いているか、細かすぎてわからないとか、堂々巡りしているように見えるとか、自分はこっちの意見だとか、そんな感想も引き続きお待ちしています。

今年は敗戦60周年ということで、TVなどでも特集番組がたくさん放映されました。少しはみたでしょうか。過去のことではありますが、実はこれから数年のイシューとしてもとても重要です。自民党が圧勝し、衆議院の3分の2を与党が占めることになりました。改憲の決議が可能な人数になっており、早くも改憲の発言が議員の間で行われています。今回の選挙は自民党自ら、郵政民営化が争点といっていたので、改憲については国民は判断していないと考えるの本筋だとは思いますが、実際にこれだけの議席を与えられてしまえば、向こう4年間で、かなりの無理も通ることになります。その結果、何が起こるのかが、とても気になっています。

pacolog!での議論で、食い違っていた代表的な争点は、戦争前の日本が戦略的な行動がとれていたのか、という点でした。15年戦争（満州事変から太平洋戦争敗戦までの15年間の戦争）では、日本は宣戦布告をしない戦闘がだらだら続けられたり、戦って勝てそうにない相手との戦争に入ったりする行動が続きました。それらの行動が、自国と周辺国の状況を十分検討し、もっとも妥当性が高い選択だと結論した上での行動なのかどうか。戦争という行動を選んだことには、もちろんそれ相応の理由はあるとしても、それは「事情」に過ぎず、他の選択肢の中から最善案を戦略的に（長期的な展望をもとに）選んだとはいえるのか。

僕は、あの戦争の行動は、状況に対する「反応/反射」としては妥当だったとしても、長期的で世界的な視野に立った戦略的な行動がとれていなかったこと、あるいはとろうとしていなかったことが大きな問題だと考えています。議論の相手のXさんは、「状況への対応」としては妥当だという主張をしていますが、僕は「対応」ではなく、「戦略性のなさ」を問題にしている、という点で、イシューがずれてしまっているのでした。

近視眼的に、あるいは自国の事情を中心に判断して、国際社会の立場で見ると無茶なこと、反感を招くことをやってしまっていたのではないか。これが議論の主要なイシューのひとつになっています。「当時の指導者の立場では、そこまで長期的/国際的な視野には立てなかった」という説明が説得力を持つのか、「戦略的な視野に立てない」ような指導者は、国の指導者としては貧弱に過ぎるという僕の批判のほうが妥当なのか。

自国の政治家に、どこまでの能力を求めるのか、という点で判断が分かれるのではないかと思います。国民に多大な苦痛を強いるなら、それに見合う、広く、深い判断力を持たなければならないと僕は考えていますが、それは求め過ぎなのか。あなたはどちらだと思いますか？

このような戦略的な判断が出来なかったことが、結局は国として追い込まれていく状況につながり、「勝てる自信がない」対米戦争が「国の存亡をかけて」決断されてしまうという結果を生んでいます。勝てる自信がない戦争に国を追い込んだ原因が指導者の戦略性のなさだとしたら、そういう指導者をどう評価すればいいのか。

もうひとつのイシューが、体制の問題です。東条英機はじめ、戦争指導者は、「自ら勝利に全責任を持って戦争を決断した」と説明していたわけですが、実際には全責任を握ってはいなかったのでした。国民には戦争に勝つためにひとつにまとまれと言いつつ、海軍と陸軍、参謀本部と中国大陸の関東軍など、それぞれがバラバラな行動をとっていた。それは確かに明治憲法と体制の矛盾ではあったけれど、矛盾を承知で、国民には無理な戦争を強いたことについてどう考えればいいのか。体制の矛盾の範囲内では、指導者は精一杯がんばったからOKなのか。矛盾を承知で、矛盾を隠しながら、もっているように振る舞ったのは間違いなのか。

ここでは大きくふたつのイシュー（指導者の戦略性の不足/体制の矛盾を放置した問題）は、一見、いまの時代には関係ないように思えますが、いまの時代のイシューにもつながります。たとえば小泉首相が自衛隊のイラク派兵を「戦略的に決断した」と言えるのか、もしそうではないなら、その点をもっと追及するべきではないのか、といった点が、今日的なイシューといえるでしょう。あるいは自民党の郵政民営化案は戦略性を持っているのか、それとも状況にただ対応しているだけなのか。

こういった指導者の判断のぜひをていねいに考えるために、将来の重大事につながりそうなイシューを明確にしていくこと、そしてそれについて有権者として判断すること。そういう観点で、たとえば今回の選挙の結果を見ると、かなりお寒い判断を国民がしてしまったのではないかということがわかります。もちろん、有権者が正確に判断するための情報を出さないことの方が問題なのですが、それを出さない政府を支持することが、将来の何を意味するのか。過去から、どのように学べばいいのか、その方法のひとつが、今回の議論の中には含まれていると僕は思っています。

■今週のイシュー（2本）

さて、今週考えてもらいたいイシューです。

[07]住むとしたらどんな家？　家で何をしたいかを考えて、それが実現できる家として、どんな家に住みたいかを考えてみてください。夢を語っちゃいましょう。

[08]自分と家族の健康維持のために、どんなことをしていますか？　運動、食事、サプリメント等々、今やっていること、その効果を教えてください。

回答は、paco@suizockanbunko.comあて直メールの場合、件名を「知恵市場イシュー223」としてください。
[com2]MLでもOKです。
いただいた回答は、次号に掲載する場合があります。名前も載せますが、掲載したいハンドルネーム、または匿名希望を、＜メールの上の方に＞書いてください。文末や文中だと、見落としてしまう場合も考えられるので。
いただいたメールの中に、公開してほしくない情報がある（僕あて私信の内容）ときは、その旨、明記してください。

たくさんのメールを待ってます～

　

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

mail:paco@suizockanbunko.com