099 鹿児島で感じたこと、考えたこと

photo by Toshi.

2月16日～20日にかけて鹿児島と宮崎に行ってきました。半分遊び、半分情報収集を目的としていたのですが、なかなか興味深い旅だったので今回はこのことを書きたいと思います。

■なぜ鹿児島へ？

「日南海岸をドライブしたい」というgirl friendの希望を入れて宮崎へも足を伸ばしはしたのですが、今回の中心は鹿児島でした。行き先が鹿児島になったきっかけは、ほんのちょっとしたことでした。ある人に年賀メールを送ったら「しばらく前から鹿児島に赴任してます。時間があったら遊びに来てください。歓待しますよ」と返事をもらったのです。

実はこの人とはそれまで一度しか会ったことがありません。グロービスで仕事をしている頃に2時間ほど話したというだけ。でも、その時の話がおもしろかったのと、その後のあいさつメールなどにまめに答えてくれるので、一度会っただけ以上の親しみと興味を感じていました。なので、「おいでよ」というメールをもらったとき、社交辞令と受け取らずに行ってしまおう、と思ったのでした。つまり、鹿児島でなければならない理由は全然なかったのです。彼とまた会って話してみたい、特に今、地方にいるというのがまたいい、と思ったのでした。

そして、地方にいるのがいい、と思ったのは、去年は海外を見て外に視野を広げたので、今年は中に視野を広げるために日本を見ておく必要があると考えていたからでした(コミトン「年賀メールの返事がくれたもの」)。まあちょっと旅行に行ったくらいで見られるところは限られているでしょうが、それでも行くと行かないでは全然違う、特に現地に知り合いがいると違うはず、と思ったのです。

行こうと決めたら、例によって二人のデータベースをひっくりかえしながら鹿児島出身者をあたり、情報収集をします。その結果また一人、鹿児島で会える人が見つかったりもしました。そして今回は僕が事前にかなり忙しかったので、girl friendが計画と手配。そして行ってきた鹿児島。二人の一致した感想は「思っていた以上によかった、楽しかった」でした。

■ちゃんとした観光地

帰ってきて、「なんでよかったと感じたのだろう？」と話して出てきた一つ目は「ちゃんとやっている」ということでした。旅行先について「観光地化している」という言葉はだいたい悪い意味で使われますね。商業主義がはびこって自然な景観が損なわれてしまっている、値段が異様に高い、接客に心が感じられない、どうせ一度きりの客と短期の売上増に走る等々。

今回僕らが行ったところはまさに観光地が多かったのだけど、上のような悪い意味での「観光地化」があまり起きていなかったのです。しかも「しろうとっぽい」わけではなく、「観光」に値するようなものをちゃんと備えていました。

たとえば知覧で訪れた武家屋敷。江戸時代に作られた武家屋敷群がきれいに保たれています。こういったところでは、ともすると無粋な注意書きや大きな看板が雰囲気をぶち壊していたりするのですが、ここではそういうことはありませんでした。もちろん注意書きはあるのですが、読む人への配慮を感じるのです。

また武家屋敷の一部を使った食事処での昼食もとてもよかった。味がよかったのはもちろんですが、使っている食器の素材や色のバランスもよく考慮されていた。そして値段は「人にすすめてもいいな」と思えるものだったし、特に印象に残ったのが、店の人の感じのよさでした。たとえば、girl friendが席を立っていた時に注文を取りにきたのですが、お膳に付くうどん/そばのどちらを選ぶかをgirl friendに僕が聞き忘れていたら「その分は後でお聞きしますね」とメインの部分の注文を先に流してくれました。そしてあとで選んだそばはその分だけ少し遅れたのですが、持ってきた時には「遅れてごめんなさいね」といわれたので、何かとてもうれしい感じがしたのでした。

■手抜きと過剰売り込みから解放

このように、ちゃんと仕事をする一方で、お客が気分よく過ごせるように配慮する、というのは意外と観光地ではなかなか体験できないことのように思います。逆に手抜きと過剰な売り込みが横行している。でも、今回は行く先々でこの点、よい印象を受けました。

たとえば鹿児島市内で訪れた仙巌園。島津氏の館であったものをその子孫が観光施設化したものですが、とても楽しめました。ここでなんといっても有名なのは桜島と錦江湾を借景にした庭園です。ぼくらが行った時には雲がかかっていて桜島がほとんど見えなかったのですが、それでも十分美しいものでした。

そして、ここでは売店に寄るとけっこう積極的に売り込みをしてきたのですが、「がめつくはないな」と感じさせたのはちょっとした言葉でした。ひとしきり売り込んだ後、買おうかなと傾いている僕らに対して「お帰りに寄られてください」と言うのです。確かにそこはまだ入ったばかりのところで、園内はこれからまわるところでした。でも、店は園内にけっこういろいろあったので他のものを買ってしまう可能性もあります。結局気が変わって何も買わないかもしれない。でもその一言。ちょっと「おっ」と思って、かえって帰りにちゃんと立ち寄ってしまったのでした。

ここでは他の店でも(けっこう店は多かった(^_^))、目障りなほど商品やPOP、売り文句が出てくるのではなく、あくまで落ち着いた雰囲気と調和しながら商売が行われているところに感心しました。店が多いことも、それが島津ゆかりのものを扱った店だったこともあってか、むしろ単なる展示館にはない活気・生気を感じさせていた気もします。

ちゃんと仕事をしているという意味では、御殿での案内もよいものでした。500円払うと着物姿のコンパニオンが御殿の中を20分ほどかけて案内してくれて、最後にはお抹茶とお茶菓子を出してくれます。その立ち居振舞いや説明はプロらしく、500円でも悪くないな、と感じさせるものでした(ただし仙巌園に入るのに別途1000円かかったのは高いという見方もあるかも)。

■どんどん商売してもいやみがない

おもしろかったのは宮崎の鵜戸神宮です。まあいろいろ考えつくなあと感心するくらい商売をしているように見えるのですが、でもいやみがない感じを受けました。たとえば、崖の上から亀石という岩のくぼみを狙って小さな玉(運玉)を投げ、くぼみに入ったら幸運が訪れるといって、まず運玉を5個100円で売っています。安いしおもしろいのでけっこうみんな買ってしまう。そして入った玉はかわいいお守り？にちょっと加工して売っています。値段はすごく高いわけではないし、そこ独特のもので「幸運の玉」というストーリーもあり、ちょっとかわいいので買ってもいいな、という気にさせます。

また安産のお守りを渡す時には「お生まれになったらこれでお守りを送り返してください」と封筒を渡しているのは気配りを感じさせました。本来ならばお礼にお参りするべきものなのでしょうが(^_^)。そして全体として、こぎれいに保たれていて、でも雰囲気をこわしてしまうような素材は使っていないことには好印象を受けました。なお、ここのホームページはそこここにちょこっとユーモラスな表現をしているので見てみるとおもしろいでしょう。

■みんな、まじめ

もちろん、行ったところ全てが完璧だったわけではありません。泊まった宿でも、せっかくの温泉がお湯が熱くてずっと入れなかったというところもありました。また、せっかくの雰囲気ある看板の横に、派手なのぼりがずらっと並んでいるのが雰囲気を壊しているところ、部屋の外の自動販売機がやたらとうるさいところもありました。

でも、そういうところも含めて、総じて見るとまじめにやっているのが、清潔感のあるところや、手抜きをしていない食事(ちゃんと料理があたたかいとか)等から伝わってきました。また人の接し方に心を感じることは、鹿児島市内のビジネスホテルから小さな温泉、ラーメン屋に至るまで共通でした。そして、宿一軒あるいは観光地一帯という単位で、調和が取れていてちぐはぐ感が少なかったのも、「よかった」と感じさせた要因だったと思います。

■鹿児島というのはすごかったんだ

鹿児島に行ってよかったともう一つ感じたのが、鹿児島の歴史に触れられたことでした。島津の資料を集めた尚古集成館、維新での薩摩藩士(特に西郷隆盛)の役割を説明した維新ふるさと館などを見ると、この地域が明治維新前後に果たしてきた役割をかいま見ることが出来ます。

たとえば島津斉彬の元、紡績、造船、製鉄などが日本の中でもいち早くこの地でスタートしたことは、そういえば日本史の授業でやったなあ、と覚えている人も多いと思います。もう少し見てみると、日本初の洋式軍艦「昇平丸」の建造、同じく日本初の蒸気船「雲行丸」の建造、日本初のガス灯、日本初の洋式高炉での鉄鉱石から銑鉄の精練、日本初の洋式紡績工場と日本初のオンパレードです。
参考:島津ヘリテージ

維新に目を移せば、大久保利通、西郷隆盛をはじめとして、いろいろな人物がこの地から出てきています。そして彼らが日本を動かしていった。これは東京が中心という今の頭で考えると信じられないことのような感じがします。九州の端、日本の端の人たちが、京都や江戸に働きかけ、日本を動かしていった。船が海外との接点だったことを考えれば、外との接触が多い薩摩が江戸や京都よりも高い意識をもつのは当然なのかもしれませんが、それにしても、日本のいろいろな地域がそういう感度とエネルギーを持っていたら、おもしろそうだと思いませんか？　では何がそれを可能にするのか？　鹿児島で見た歴史は一つそんなことに頭を向かせてくれました。

そしてもう一つ。維新ふるさと館で西郷さんの生涯と維新についての人形劇(ロボットが登場して行います)を見ながら思ったこと。国が危機の時代を乗り越えるには、志に高い優先順位を置いたリーダーたちが、自己保身や私利私欲を優先する人たちに勝って行くことが必要なのではないか。もちろん、小説やドラマ、このような展示館の説明いずれも、過去を美化したところはあるのでしょうが、それを差し引いても何かそんなことを感じます。逆にそれが起きなかったところでは、植民地化や列強による国の分断が進み、苦難の時代を経験することになったのではないか。

ちょうど今の時代、そんな危機に日本も世界も直面しているような気がするだけに、このあたりが気になっています。なお、志を私利私欲に優先するというと聖人君子にしかないことのように感じられますが、実はそうでもないのではないか、という気が最近、少ししています。正しくは、志が人の第一の欲求になってしまうことがありうる、ということかな。鹿児島の話からはだんだん離れていくので、この話はこの辺で。それにしても一地域でこれだけのことが出来た、というのは100年以上前のこととはいえ、示唆を感じる発見でした。

■思わぬところで日本の美に触れられた

さて、今回の旅が「思っていたよりよかった」と感じられたのは、日本独特の美に触れられたことがあると思っています。武家屋敷の庭、神社の境内などには、神経は行き届いているけれども「支配」はしていないとか、つくりすぎていない美しさを感じました。そういったことは民宿の構えにすら感じていました。そして、まあ不勉強だったから、といえばそれまでなんですが(^_^;、京都や鎌倉ではなく鹿児島でこういったものに出会えたことに、思いがけないうれしさを感じました。

また、おもしろいな、と思ったのは、そこでの美が今、日本や日本人について言われる批判とは矛盾する形で作り出されていることです。たとえば借景や枯山水という発想は、見る側の想像力を求めます。しかしこれは「すぐ正解を欲しがる」「イマジネーションが足りない」と言われる今の日本人像とは矛盾します。ということは、考えないというのは別に、日本人の伝統ではないということかもしれません。

そして「美」の話に戻ると、美しいと感じはしたけれども、好きだと感じられるものばかりではない、というのも発見でした。たとえば武家屋敷や古民家に住んでみたいとか、自分の家の庭に枯山水をつくりたいとは思わない。寒いとか不便とかいうのもありますが、それとは違った何か違和感とか不安感を感じている。それが何なのかはまだ見極めきれていませんが、自分のアイデンティティを考えていく上ではポイントの一つになりそうな気がしています。

■見えてくるのに時間がかかること

さて、知り合いからのメールをきっかけに鹿児島に行ったと冒頭に書いたにもかかわらず、彼を通して見た鹿児島については全く書かずにここまで来てしまいました。結局、今回は書かずに終わりそうです(^_^)。というのも、彼と話していたことが、まだ何かを語るほどに消化できていないよう。これは彼だけでなく、もう一人向こうで会った人(この人は地元の人)との話についても同様に感じています。そこはまた別のところに行ったり、その時に違うことをやってみたりすることで、だんだん見えてくるのではないかな、と思っています。ということで、またちょっとしたら次の旅行の計画を練ろうと思っています(^_^)。

この記事に関する感想や意見、またこの記事に対する評価をおまちしています。こちらのページから、お気軽にお寄せください。コミトンはあなたの意見でもっとおもしろくなります。

★コミトンHTMLメールサービスをご存じですか？

コミトンは、web上で読んでいただくwebマガジンですが、毎週月曜日の更新ページをメールで受け取れるサービスもあります。

こちらからご希望のメールアドレスを登録してください。HTMLメールなので、ご注意ください。

Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

mail:toshi@chieichiba.net