206P_「考え方」のつくりかた(2)

photo@Todaiji temple by paco .

今週は、204号の続きです。

今回は7月ごろ、大和書房から出版予定の『「考え方」のつくりかた』（仮題）の冒頭をご紹介します。

■考え方のヒント 2 隠れた前提を疑う

自分の考えを相対化するために最初にすることは、「自分の考えは絶対ではない」ということに気がつくことです。このように言われると、「自分の考えが絶対的だと考えたことなどない」と思うかもしれません。たしかに「考えが絶対的」というと、まるで独裁者や専制君主のようなので、自分にはあてはまらないと感じます。しかし実際には、多くの人が自分の考えが正しいと思いこみ、ほかの考えがあることを思いつきもしません。自分の考えだけが正しく、「ほかの考え方をする人がいない」とか、「自分は世間一般の多くの人と同じ考え方をしているので、他の人と違わない」というように考えているのです。実際には多くの人が、たくさんの「これは絶対正しい」という考えをたくさん持っています。「それってあたりまえだよね」ということを、特に深く考えることなく、受け入れていて、「常識」と呼んだり、「あたりまえ」と決めつけたりしているのです。

ビジネススクールでは、「経営者の視点で考えてください」という指示が出ます。「経営者の視点で」といわれると、多少ともビジネス経験のある受講生は「経営者の立場では、利益を増やすことが目的だ」と考えてしまいがちです。企業の究極の目的は利益を上げて、その利益を企業のオーナーである株主に還元することだ」と考え、「あたりまえのことじゃないか」と思い込むのです。

もちろん、経営者にとって大事な目的は利益を増やすことです。でも、一歩引いて考えてみて、これは本当でしょうか。

実は、こういう自分があたりまえだと思い、受け入れていることがとてもたくさんあるものなのです。自分があたりまえだと思っているということは、「ほかの考え方があるわけがない」と考えているということで、つまり「自分の考えは絶対的だ」と思っていることです。考えを相対化するためには、まず、自分がしばしば「絶対的な考え方を持ちがちだ」と自覚することが第一歩になります。自分の考え方以外の考え方が必ずあると、いつもあたまの真ん中におき、繰り返し「この考えにはほかの考えはないのか？」と自問することです。この習慣が、自分なりの価値観をしっかりつくる基礎になります。思いこみを排除して、いろいろな考え方があることがわかった上で、「たくさん考え方はあるが、自分はこれが一番適切だと思う」というりかいができることが、価値観を持っている状態なのです。

さて、「経営者の立場では、利益を増やすことが目的」という考えに戻って再検討してみましょう。たしかに経営者は利益について考えているはずですが、すべての経営者は利益を最大にすることだけを考えて会社を経営しているのでしょうか。もし利益を増やすことが経営者の目的なら、世の中に赤字の会社がこれほどたくさんあるのはおかしいし、たとえば小売業のように利益率が薄い業種で事業をやるより、もっと利幅の厚い事業の方がいいと考えて、転業する企業たくさん出てもよさそうですが、実際にはそのような行動に出る企業はほとんどありません。

企業の経営者は、実際には、利益のほかにも、たくさんの目的意識を持っています。自分が好きな業種、自分の知識がある業種、めざしたい企業規模などいろいろな条件のもとで経営をしていて、技術者出身の経営者なら、儲けより技術開発に力を入れてしまいがちかもしれません。

こう考えてみると、「経営者の立場では、利益を増やすことが目的」という考えは、自分の思いこみで出てきた理解で、ほかにもいろいろな経営者像があるということに気がつきます。人間は呼吸しなければ生きていけない存在だからといって、自分が生きている目的が呼吸にあると言う人はいないのと同じです。「経営者の立場では、利益を増やすことが目的」と思いこんでしまうのは、よく検討もせずに自分の考えに凝り固まっていたのだということに気がつきます。

このように、自分が深く考えずに「常識」として受け入れてしまい、ほかに考えがないかのように思いこんでいる考えのことを、「隠れた前提」と呼びます。隠れた前提は考えを相対化するときの大きな邪魔になるし、考え方を適切につくっていく障害になります。自分があたりまえだと思っていることほど、「ほんとうか？(True?)」と自問し、ほかの考えもあると考えられるようにしてください。これが自分の考えを相対化することにつながります。

■考え方のヒント 3 「フレーム」を発見する

自分なりの考えを、人に堂々と伝え、意見交換できるレベルにまでしっかりさせるには、まず自分自身にとって、その考えが納得感があり、自信がある状態になっている必要があります。自分が確信を持っていないのに、人がわかるはずはないのです。

実際には、自分の意見にあまり自信がないために、何かしら考えがあっても、あえて人前では言わないと考える人が多いようです。それでも、意見を言わなければならない場面になると、一応話してみるものの、別の意見が出てくると、たちまち相手の意見の方がいいような気がして、自分の意見を引っ込めるという行動を取る人が多いのです。

これとは反対に、自分の意見に根拠のない自信があり、どんどん人にも話すのですが、相手が異なる意見を言っても、聞く耳を持たない、と言う場合もあります。こういう人は「隠れた前提」を持っていて、自分の考えが正しいと無条件に考えているので、本当の意味で、自分の考えに確信が持てているわけではありません。「隠れた前提や思いこみでひとつの意見に固執すること」と、「自分の考えに確信を持っていること」との違いは、一見あまりないように見えますが、見分けるのは簡単です。前者のタイプは、反論を受けたときに、たいていはだんだん語気が強くなり、怒り出し、けんか腰になります。たまに怒らない人もいますが、その場合は相手の意見をまったく聞いていません。後者のタイプは反論を受けると、自分の意見と反論は、どこが違うのか、違いを考えようとします。その結果、怒るのではなく、質問が増えます。「君の意見はこういうこと？」と確かめるような質問が出るようなら、自分の意見に確信を持つタイプです。当然、後者のほうが、しっかりした価値観を持っているといえます。

さて、自分の意見に確信が持てるようになるための方法は、「フレーム」をもつです。フレームについては、「考える枠組み」と呼んだり、僕は「論理力」の本で「サブイシュー」読んでいるものと同じです。この本は論理思考を学ぶ目的の本ではないので、フレームについて詳しく知りたい人は、そのテーマの本を読んでみてください。ここでは、論理思考の実際的な応用方法として、フレームをどう使うかを紹介します。

フレームを持つためには、まず全体像を把握する必要があります。今のイシューを巡る議論の全体像を知り、その全体をいくつかの領域に切り分けるという考え方をするのです。とはいえ、切り分けるほうは以外に難しいので、僕がおすすめしたいのは、「常に全体をつかむことを意識する」という方法です。

全体をつかむためには、まず自分の考え以外にも考え方があることを理解することで、これが「考えを相対化する」ことです。自分の考えが唯一絶対でないことを意識し、ではどんな考えがあるのかを調べてみる。自分とは正反対の結論を持っている人の意見を知っておくことは、自分の考えを相対化するよい方法です。次に、正反対の意見だけでなく、「だいたいにているけれど、ちょっと違う」意見を調べ、じょじょにいろいろな考えを調べて、全体像を網羅する、つまり主要な議論すべて当たってみるのです。

とはいえ、すべての議論や考え方に当たるのは不可能ですから、代表的なものをいくつも知識として持っておくことを忘れないようにすれば十分です。こうしておくと、自分が相手に意見を話し、反論が来ても、「その反論はこういう意味だよね、でもこの点が自分と意見が違うね」と話すことができます。あらゆる反論が自分の考えの中に含まれていれば、人とケンカをすることなく、意見交換が可能です。

自分の考えと異なるいろいろな意見を知り、それを類似のもの同士でグルーピングしたものがフレームになるのですが、意外にフレームという概念は使いこなすのが難しいので、ここでは「イシューに対する意見を幅広く集め、網羅する」ということを意識したほうがいいでしょう。議論の全体感を持っていると、どんな意見と出合っても不意打ちをされないので、あわてずに議論ができるし、落ち着いて相手に質問して確かめるという余裕も出てきます。こういう態度で議論ができる人を、価値観がしっかりした人、と呼ぶのです。

■考え方のヒント 4 歴史感覚を持つ（縦軸）

今、ビジネスの世界ではひたすらスピードアップが続き、速いほどよいという考えが普通です。この考え方にどっぷりと浸かっていると、200年前のことなど、今の実生活にはなんの役にも立たない、「博物館の中にあるもの」だと考えがちです。しかし一方で、ゆっくりとした大きな時間のうねりを理解することも、実はとても重要で、確固たるものの見方をつくるときの基礎になります。

北米大陸の先住民であるネイティブ・インディアンの間には、「7世代あとのことを考えてものごとを決める」という考えがあります。1世代は今の感覚では30年ぐらいかもしれませんが、ネイティブインディアンの社会では15～20年ぐらいでしょうか。7世代というとざっと100～150年でしょう。この、長い時間感覚をつかむための、思考実験（想像）をひとつご紹介します。

学校の教室ぐらいの部屋に、自分が一人いると想像します。右隣には自分の両親がいて、自分を見て笑っています。左隣には自分の子どもたちがいます。両親の向こうには、その両親＝祖父母が4人。子どもの左には孫たちがいます。祖父母の向こうにはそのまた両親がいて……と考えると、自分を中心に、上流3世代、下流3世代では、何人が教室にいることになるでしょうか？　もちろん、実際のところは自分の妻についても上流世代がいるし、下流の子どもたちには配偶者が必要なのですが、実験なので、とりあえず自分の好みで多少省略しながら考えてみてください。どうでしょうか。自分以降の人は配偶者をのぞき、子どもは二人として、上流はそれぞれ両親のみを書いたとしても、30人前後の人が書き込まれることになると思います。自分の配偶者の分も入れれば、前後3世代、合計7世代では100人を優に超えてしまいます。

一番孫から見て、一番上流の7世代前は、真ん中の自分から見ると、必ずしも遠い世代ではありません。一番上流で明治維新ごろの生まれ、一番下流で2050年ごろの生まれになります。ざっと200年ぐらいにまたがっている感じです。自分が仲介者となって、明治生まれの人と2050年代の人がうまく話ができるようにすることは、なんとかできそうな気がしませんか？　これが7世代、200年ぐらいの世代感覚です。上流のおばあちゃんからも、下流の子孫からも、「おまえたちはロクなことはしなかった」と責められないようにして、できれば「おまえたちがうまくやったから、子孫が豊かになった」と言われるようにする。これがネイティブインディアンの時間感覚なのだと思います。

ものごとの判断の基準に、100～200年ぐらいの時間に基づく判断を組み込めるようになると、欧州の動き、中国の動き、米国の動きが、また違ったものに見えてきます。具体的には、この後のテーマの中でも話していくつもりですが、まずは自分の時間感覚を「ドッグイヤー」から「ネイティブインディアン・イヤー」に自在に切り替えられることをめざしてください。これができるようになると、それ以前とは判断の結果が変わってきます。

　　　　（～続く）

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

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