090 フィジー-いい人たちの国？

photo by Toshi

12月5日から12月12日まで、少し早めの冬休みを取ってgirl friendとフィジーに行ってきました。フィジーを選んだのは、寒い日本を離れて南の島でぼーっとするのもよさそうだと思ったから、それと以前に南太平洋の島々の旅行記を読んで、フィジーの人たちがとてもいい感じに思えたので会ってみたいと思ったからでした。

そして行ってみて、フィジーの人たちの感じのよさは本で読んだ以上のものでした。これまでいろいろなところでいい感じの人たちに会いましたが、そのどれともちょっと感じが違う。今回はこのことを中心にフィジーの旅行記を書いてみたいと思います。

■フィジー基礎知識

まずはフィジーという国の基礎知識から。ご存知常夏の国で、300余の島からなり面積は四国と同じくらい。人口は80万人(99年)。主要な産業は観光(リゾート)と砂糖。農業に従事する人が半分程度。人口構成としては、この地域に古くからすむフィジー人が50%程度、イギリスの植民地時代(96年間)にプランテーションのため連れてこられたインド人が45%程度を占めています。そんなことから公用語は英語、フィジー語、ヒンドゥー語。宗教はキリスト教とヒンドゥー教徒が大半を占めているようです。政治的にインド系の台頭に対してフィジー系の軍人等がクーデターを起こした時代もあり、というかつい2000年までそういったことが起きているのですが、治安はよく人々がフレンドリーなことで知られています。物価は意外と高く日本の半分から三分の二というのが僕の実感です。

■行き当たりばったりな旅に

前回の世界旅行ではいろいろと下調べをしたりコネクションを作ったりしてどこに行くかもある程度決めてから出かけていたのですが、今回は結局、往復の飛行機を取っただけで出かけてしまいました。これも「何事もなんとかなりそうな」国だからでしょうか。

それでも飛行機の中で簡単に計画を立て、まずはカンダブ島というフィジーで4番目の大きさの島に行こうと決めたのですが、日本からのフライトがナンディ空港についたとたんにこの計画は変更になってしまいました。カンダブ行きのフライトは今日も明日も満席だとのこと。8時発のタベウニ島(フィジー第3の大きさの島)行きなら乗れると言われたのが7時55分。そこそこ人はいて素朴で自然も楽しめそうな島ということでここも候補に上がっていたのでタベウニ島に行くことにします。のんびりのはずのフィジーとは思えないタイミングに見えますが、飛行機と言っても20人程度が乗るものなのでどうにでもなるのでしょう。実は僕ら以外に乗ったのは2人だけでした。そして1時間半ほどで着いたタベウニ島で僕らのフィジー滞在は始まりました。

この後もフィジーの首都スバに2日いるつもりが1日でナンディに行ってしまったり、そんなもんに行くわけがないと思っていた無人島クルーズに参加してしまったりと、行き当たりばったりに旅が進みます。

■フィジーのあいさつ　Bula!

まずおもしろいなと思ったのはよそものの僕らにもすれ違うと笑顔であいさつしてくる人々が多いことでした。後に訪れた首都スバや空港のあるナンディくらいになると人もそこそこ多いのでいちいちすれ違う時にあいさつしたりしないのですが、道を歩いていても数分に1回くらいしか人に出会わないタベウニのようなところだと、相手と目が合えば笑顔であいさつをしているよう。日本でも登山の時やツーリングの時など会う人会う人あいさつする習慣がありますが、なんか仲間意識を感じるのかな?　そういえば日本では無言のことが増えましたね。買い物などしても黙ったまま。子供の頃は駄菓子屋さんに「くださーい!」とか行って入っていった記憶がありますが。一方、フィジーでなくともたとえばアメリカでも、けっこう目が合った人にあいさつすることはあるし、スーパーのレジでも銀行の窓口でも「Hi!」からスタートします。

ところでフィジー語でのあいさつの言葉を知っていますか?　Bula!と言います。フィジーでは英語が公用語として使われているのですが、このあいさつだけは外国人相手であってもよく使われるので「ああ、どこかで聞いたことがある」と思った人もいるかも。カタカナで書くと「ブラ」ですが、「ブ」も「ラ」ものんびりそしてしっかり言うと現地の言い方に近くなります。「ぶっらぁ」という感じ。ちょっとためしに口に出してみてください。「こんにちは」とも「Hello」とも違った、のんびりあったかい感じの響きがしませんか?　よく笑顔であいさつされることと、この言葉の響きから、僕はここの人たちに魅力を感じていったようです。

■気持ちよく話せる

次に、フィジーの人たちは本当に話しやすいのにびっくりします。トルコでも人々が人なつこいのにびっくりしたのですが、フィジーではさらに気楽に話ができる感じがしました。たとえばバスを待っている時に人から「どこから来たの?」からよく聞かれる。そして「どこに泊まっているの?」「何日いるの?」と続くのはトルコでもいっしょだったのだけど、トルコではどこか警戒を必要とする感じがしたり「うるさいな」と圧迫感を感じることがありました。フィジーでもナンディの町を歩いていて日本語で話し掛けられるような場合は明らかに客引きなのですが、そういう話はおいといて、話をするようになってからは、楽に楽しく話していられる気がしたのです。

たとえばバスを待っている時とかに何かをきっかけに話が始まったとします。フィジーの人について感じたのは、ちゃんと「会話」になる、つまり向こうが一方的にしゃべるでもなく、やたらと質問ばかりしてくるでもなく、他愛もない話であってもややシリアスな話題であっても、ちゃんとやりとりになる、ということでした。これは年代に関係なく、大人から子供までそういう感じがしました。

また宿や旅行代理店の人のようにこちらと利害関係がある人と話している時も、普通以上に気さくに話を出来ることが多かったように感じています。たとえばナンディのホテルに入っていた旅行代理店でクルーズを選んでいた時のこと。その人が「今、日本語を勉強しているの」と言ったところからひとしきり言葉の教育システムの話で盛り上がっていました。

これはどうしてだろうと考えてみて、今思っているのは、目の前の人と話をすることが目的になっているのか、それとも他のことが目的になっているかの違いではないかということです。もちろん後者が全くないということは少ないでしょう。しかし「外人について知りたい」「英語/日本語を話したい」「商売を成功させたい」というような他のことの割合が大きくて、会話そのものや相手個人に対する興味が薄いと、「利用されている」感を感じてこちらも構えるのだと思います。つまりフィジーの人たちはそのあたりのバランスがよいのじゃないかと。

■彼らはきっとごまかさない

そしてこういったまあ無害な会話以外でも、フィジーでは闘わなければいけないという感覚を持つことがまったくありませんでした。たとえばブラジルでタクシーに乗ったら、運ちゃんがちゃんとメーターを倒したか、普通の時間帯なのに深夜料金にしていないかとか常にチェックしていないとならない。ものを買ったらお釣りをちゃんとよこすかどうかとか、値段をふっかけていないかとかチェックしないといけない。フィジーでももちろんそういうところはあるようですが、幸いにして僕らはそういう目にあいませんでした。むしろ僕らが乗ったタクシーでは、お釣りがないからとホテルのフロントに両替してもらうと言うので偉いなあと感心していました（日本なら当たり前のことですけどね）。

こういう話は途上国で多いことですが、いわゆる先進国でも別の意味で気をつけなければならない、いろいろなごまかしがありますね。必要もないものを言いくるめて買わせるとか。そういったところでもフィジーではまったく警戒をする必要を感じませんでした。でも、どうしてそうなんだろう、というのは、少し後に。

■仕事を楽しくやっている

上のようなことがあった上で、ダメ押しとしてフィジーの人が好きだと思ったのは、仕事を楽しくやっていると感じた時でした。それを一番感じたのは無人島へのクルーズに参加した時です。girl friendが「せっかくフィジーに来たから白い砂も見たいよ」と言うので（タベウニもよかったけど、白い砂のビーチは近くになかったのでした）参加したのだけど、これが思っていた以上によかった。スタッフが楽しかったのですね。

まず最初は、シュノーケリングをやった後のこと。当初言っていたよりも少し早めに海に出てしまったために置いてきぼりを食った人たちが出てしまい、ガイドは2回海に出るはめになりました。帰ってきた彼に「タフだねえ」とgirl friendが声をかけたら彼は「いやあ、海は好きだからぜんぜん平気」と答えた。実際彼はその直後にバレーボールをやっていました。ちなみに少し早めに出たことを彼は「フィジー時間でスタート」と言っていました。早めにスタートすればそれだけ楽しいことを長い時間出来るというのです（もっともフィジー時間というのは遅れるという意味で使われることもあります）。いずれにせよ「仕事だからね」ではなく「楽しいからだいじょうぶ」というのはよかった。

そして二つ目は帰りの船の中。みんなが知っていそうな歌を最初は二人がギターでひいて歌っていたのが、だんだん歌う人を増やしていきます。そのうちキッチンにスプーンやフォークをぶちまけて即席のドラムに化けさせ（これはうまかった）、歌う人もまた増えます。最初はだるそうにしていた乗客が、思わずいっしょにうたったり手や足で拍子を取るまでになったころ、乗客の国の歌を一曲ずつみんなで歌うよ（オランダ人がいたのには意表をつかれていましたが...日本は「上を向いて歩こう」でした）と提案され、とても盛り上がります。港が近づき、フィジーの歌で締める頃にはすっかりいい感じになっていました。これはやっぱりやっている方が楽しそうじゃないとそうならない。実際、歌っている彼らはとても楽しそうだったし、かっこよかった。

考えてみればフィジーの人たちが楽しそうに仕事をしていたのを見たのはこの時だけではありませんでした。このクルーズをすすめてくれた旅行代理店の人もその仕事が好きだと言っていたし、タベウニの宿の人も楽しそうでした。

■心づかいを感じる

そしてクルーズの船を下りて迎えの車を僕らが待っている間（なぜか僕らの方面だけ迎えが遅かった）、船の片づけをし終わった彼らは一人ずつ出てくるたびに握手をしに来て「車はまもなく来るっていうからもう少し待って」と言って去って行きました。こういう心づかいは他でも感じたところでした。バス停で待っていると「どっちに行くの?」「じゃあとのバスだ」と教えてくれたり（時々違うから困るのだけど）、タベウニの宿でもオーナーは会うと「Toshi、どう、快適か?」と聞いて来たし、おねえさんはgirl friendがライセンスのカードを忘れてダイビングができないと言っていたのを覚えていて「それでどうなった?」と聞いていました。ナンディのフロントの人もバスに乗って出かけたことを知っていて「あれから何時ごろ帰ってきたの?」と聞いたり。そういう心づかいもフィジーではよく感じたのでした。

■アマチュア...だからいい?

えしかし特にビジネスにおいては、上のようなよいことばかり感じたわけではありません。特に感じたのはプロの仕事としては未完成だなあというもの。ダイビングにしても安全面でのケアが甘いし、旅行代理店やホテルのフロントもまだまだ勉強不足のまま適当なことを言っている時がある。宿の料理とかも家庭の料理（家庭料理風じゃなく）が出てきたみたいなことが多い。

でも、アマチュアだからこそ上に書いてきたような彼らのよさが出ているような気もします。仕事だから、商売だからやっているというよりも、目の前にいる相手といい時間を持ちたいからやっている、好きだからやっている。ビジネスの客というより、自分の家に訪ねてきた客というか友達を相手にするようにやっている。1か0かの世界ではないにしても、そういう感覚がかなり残っているんじゃないか。だから下手な形でプロになってしまったら、かえってフィジーの人のよさが失われるような気もします。

■なぜそれができる?

さて、アマチュアだからできるという乱暴な仮説が正しいとしても、どうしてフィジーの人たちがそこまでフレンドリーで楽しそうであれるのか。たった1週間いただけで、しかも特に調査もしたわけではないのであやしい推測なのですが、中途でも考えておくことは意味があると思うのでアイディアを並べてみます。

まず彼らと接していて思ったのは、物欲をあまり感じないということでした。物欲をあまり持っていなければ、人を見ても「カネを取ってやろう」とか「支配してやろう」とか思うよりは、お互い楽しくやろう、仕事も楽しくやれるだけやろうと思うような気がします。しかし、物欲が弱いとしても、どうしてそうなのか。

南の島で美しい海と空に囲まれ、ほどよいあたたかさと雨に恵まれた環境で、魚は山ほど泳いでいるし、くだものは勝手になって、寒さも心配する必要がない、そんなところに生活してきたから「もっと欲しい」という感覚にならないのだ、という説もあると思います。しかしそれだけならたとえばフィリピンでも同じになっていいような気がします。でもカオハガン島(コミトン057および059参照)のように気候的には恵まれた環境でも、人は欲をけっこう強く感じています。

実際、フィジーにおいても人によっては欲しいもの、ないものがいろいろあります。たとえばタベウニ島でも、車があれば3時間に一本のバスに合わせたりバスの10倍のカネを払ってタクシーを使わずとも動けます。発電機と燃料を買えれば夜遅くまで電気をつけていられます。テレビも見られるかもしれません。お湯のシャワーも使えます。冷房もつけられる。

もしそれをフィジーの人が「冷房なんかなくたって、風を入れればいいだろう?」とか、「夜早く寝て朝早く起きればいいじゃないか」と考えているとしたら、どうしてそう考えられるのか聞いてみたい。そしてもう一つ気になるのは、そういう物欲のなさが本当だとしたら、それで彼らが生き残っているのはどういうことなのか。フィジーは前述のようにフィジー人とインド人がほぼ半々ですが、のんきなフィジー人に対してインド人は勤勉なのでいつのまにか経済を押さえているという話もあります。しかし僕が話した限りでは人々の間ではフィジー人とインド人の間も良好だということだったし、フィジー人も追いやられているという感じではなかった。

早くもまたフィジーに行ってみたくなってきました(^_^)。なお旅行者としての僕は、かっこいいリゾートホテルの完備された環境よりも、夜10時に電気は消えてしまうけれども星が見える民宿の方がいいと少なくとも今は言えそうです。何よりも気のいい宿の人たちと接することが出来て、気取らない旅行者たちとの会話も楽しそうですから。お湯のシャワーと風が気持ちよく抜ける構造は欲しいですけど(^_^)。車はどうかなあ。タクシーで動かずバスの時間までぶらぶらしていたから、そのあたりの人といろいろ話が出来たという気もします。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

mail:toshi@chieichiba.net