134 素朴な疑問2003秋

Photo by paco.

今回は、オムニバスで、最近感じていることとその考察をいくつかお送りします。僕にもよくわからない、というようなイシューばかりなので、読者のあなたの意見も聞いてみたいなあと思っています。[com2]MLか、直メールでお待ちしています。

■国の借金は最後はどうなるのか？

米国の格付け会社によって、日本国債の格付けが下がったという話が出たのはすこし前のことで、その後は、まあ持ち直しているようですね。格付けというのは、一定のルールに基づいて、国債などの信用度合いを評価しているものですから、下がったとすればそれなりの理由があるわけで、簡単に言えば、日本国債を持っていても、値段が大きく下がったり、最悪の場合紙切れになってしまうという可能性をデータ的にとらえて、評価をしているわけです。

国債にしても通貨にしても、それ自体に価値があるわけではなくて、発行元が価値を保障しています。国債や円の場合は日本政府です。政府が、国債につけられた額面の円と引き替えてくれなかったり、円とは引き替えても、円そのものの価値が暴落してしまう可能性、あるいは約束の利息を払わないリスクがあれば、その債権は「危ない債権」として、格付けが下がります。

日本の借金の額は、累積で800兆円を超えたといわれています。日本政府が発行する国債の残高が400兆円、政府の長期借入金が200兆円、地方自治体が発行する地方債の残高が200兆円というのが大まかな内訳です。これに対して、日本のGDPは、日本政府によると500兆円ということになっていて、日本が1年間に生産する富の1.6倍の借金を、中央政府と地方政府がつくってしまっているということになります。

個人で考えると、借金（住宅ローン以外の）が年収の2倍を超えると自己破産という目安がありますから、日本という国の借金は限界に近づいていると見ることができます。これに対して政府は、日本は貿易黒字国で、対外純資産を180兆円もあるとか、国民の貯蓄の残高が1400兆円あるからだいじょうぶという説明をしているわけですが、ここが問題です。

まず対外純資産180兆円のうち120兆円は、日本政府や機関投資家が買っている米国債です。米国も日本と同じように、中央政府と地方政府あわせて1400兆円の借金を抱えていて、それを主に日本と、サウジアラビアに買わせています。日本が借金を返すために、対外資産、つまり米国債を売却すれば、米国債が暴落し、米国政府は困ったことになります。日本が米国債を売ることを、米国政府は許さないし、日米関係を考えてもそれはできない相談です。対外純資産は、確かにあるものの、これは米国という「宗主国」に差し出した、「租税」のようなものです。形式的には資産でも、実際は「プレゼント」あるいは「用心棒代」といったところでしょう。とすると、対外資産は、国の借金の返済資金には充てられないことになります。

となると、もし国が借金を返そうとすると、あてにできるのは個人資産が中心になります。ちなみに企業の資産は、デフレ経済の中で負債が超過しています。その虎の子の個人資産は、実は個人の負債（住宅ローンなど）との総裁が必要で、純資産は1000兆円程度。借金の800兆円と比べると、余力が非常に乏しいことが分かります。

ところで国の借金は、国民が政府に何かしらの仕事を委託し、その仕事の代金として使った分ですから、もともとは税金でまかなうべきものを、税金を取らずに借金としたものでした。国民が増税を嫌ったので、借金の形にしたわけです。国債は未来の増税と相殺されるわけです。だとすると、もし国が借金を返そうとするなら、増税によって国民が持っている資産を吸い上げるしかない、ということになります。国民の個人資産の中心は、高度成長期を担った高齢者が持っていますから、結局、高齢者が長年かけてため込んだ虎の子の貯金を、政府が吸い上げれば、借金を返せる、けれど国民は裸になってしまう、というのがこの国の本質ということになりそうです。

ということで、今のところ何とか国全体としては赤字にならずにすんでいるように見えるのですが、もうぎりぎりであることは間違いありません。毎年赤字国債の発行は続き、借金は30兆円以上の単位で増えています。つまり、日本は経済的に「豊かな」国では、もはやないのです。米国の格付け機関が、日本を「イスラエルやボツアナ」と同じ信用度に格付けしたのも、ある意味当然ということになります。

問題はこれから、さて、ここまで抱えてしまった借金の原因は何か、その原因を取り除き、国としての資産を増やしていかなければならないタイミングにさしかかってきました。その中核を担わなければならないのは、今30～40代の中堅の国民である僕ら自身です。

■イラクの富はどこへ？

さて次は、イラク。

イラク戦開戦のころに、知恵市場ではイラク戦を巡る問題を大久保さんと交えて議論し、コミトンでも紹介しました。
107 イラク攻撃～意見の分かれるところ
 110 イラク戦争～対立を乗り超える概念

戦争が終わったという報告からすでに数か月がたつのに、イラクでの死者は続き、平和になったようには見えません。それで、先日大久保さんと話すことがあったので、「リターンマッチをやろうか？」と持ちかけたところ、快諾をもらい、「僕はイラク戦争が失敗だったとは思っていない、実際……」という意見でした。おもしろいので、この「イラク戦争分析リターンズ」を12月に行おうを思っています。

イラク戦争の目的のひとつが、イラクの石油にあることは明かです。ブッシュ政権は、主にイラク戦争のために、今年度、60兆円の借金を生み出しました。さらに、イラクの復興のために4兆円の資金が必要で、日本はこのうち6000億円程度を負担すると見られています。

もしイラク戦争の目的がイラクの石油という富なら、イラクの石油からどのぐらいの富が上がるのかを考えてみます。

イラク戦後の石油生産量は日産140万バレル程度で2004年はじめに300万バレルに引き上げようとしています。現在の石油相場は1バレル25ドル程度なので、年額にして、3兆円程度です。採掘経費は入れてませんが、無視できる程度でしょう。ちなみに、世界最大の産油国であるサウジアラビアでは日産800万バレル程度ですから、サウジで掘り出される富は年額8.5兆円程度です。

米国は、今年60兆円を投資して戦争を行い、世界から4兆円をかき集めてイラクに親米的な政権をつくって安定させ、毎年3～5兆円程度の富をイラクから奪おうとしている、というようなざっくりした計算になりそうです。モトが取れるのに10年以上かかります。これは米国にとって、安い投資なのでしょうか？　エネルギーという死活問題の解決策としてみると、ペイするのかもしれません。

では日本は、米国の手伝いをして自衛隊の補給艦をペルシャ湾に送り、キャッシュで6000億円だし、さらに、復興のために自衛隊を出すか出さないか、といっています。この「投資」に対する「利益/利回り」は、どのように計算されているのでしょうか？　ブッシュは、小泉に「イラクからの石油を半年分ぐらい分けてやるよ」といわれているのでしょうか？

仮に、日本がイラク戦に関わることで（関わらされることで）1兆円使い、それが1兆円分の国の借金になるとして、2兆円分の石油をもらって日本政府が日本企業に分け与え、代金を使って借金を返せば、1兆円黒字がでることになりますが、この計算は本当なのか？

もしブッシュや小泉が、こういう説明をして「イラクの戦闘は儲かるんだよ」といったら、あなたはイラク戦争に賛成しますか？

ざっくり計算しただけなので、どこかで勘違いがあるかもしれません、うまく説明できる方はぜひ教えてください。そして、我々はこういう計算をして人の国に軍隊を送る、もしくは送る手伝いをしているのだということを、自覚する必要があると思います。これは厳然たる国家の商売なのです。

■コトリさんはなぜ多い？

さらに次の話題。

キャラクタービジネスのアランジアロンゾに「コトリさん」というキャラがいます。

コトリさんは、「子盗り」で、大きなアミと袋で子どもを盗っていく、やばいキャラです。が、とられた子どもに「コトリさんはどうしてコトリさんになったの？」とか聞かれて、あれこれ仕事を転々としたあげく、この仕事に就いたという情けないキャリアを語ったりするのです。

コトリさんがコミックの中のキャラであるうちはいいのですが、実際には世の中にコトリさん、いや「子どもの連れ去り犯人」は急増していて、本当にやばい状態です。

僕がいる目黒は、東京でも豊かな地域で、静かな住宅街ですが、500メートル四方ほどの狭い学区域で、毎週のように問題が起きています。マンションの階段で、女の子の前で男がいきなり性器を露出したというような話はしょっちゅうですが、女の子が歩いていて、バイクに乗せられそうになったとか、友達のうちに行くために合体ロボを持って歩いていた男の子が、自転車で来た男に殴られ、男にロボを踏みつけにされて壊されたとか。近くの祐天寺で女の子がほほを斬りつけられた事件はすっかり有名になってしまいましたが、その以前にも同じあたりでランドセルを斬りつけられる事件もあったそうです。

ケガになるような事件は表に出ますが、小さな事件は子どもが親に話さない場合もあるし（親に怒られるのが怖い、外に出るなといわれるとイヤだ、と直感的に思うらしい）、親が聞いたままのときもあるし、学校の話してもそのままのこともあります。要するに、漏れ聞こえてくる話の何倍も、実際には起きているわけです。

都会だけの問題ではありません。田んぼの真ん中でクルマに連れ去られそうになったという事件が報道されましたが、六兼屋のある山梨の農村でも、「結構あるのよ」「学校からひとりでは返せないからクルマで迎えに行っている」という話を聞きました。田んぼの真ん中では目撃情報も期待できないので、本当に危険です。

全国的に起きている子どもの連れ去り事件は、誰が起こしているのでしょうか？　20～40代の男性、という話は聞こえてくるのですが、それもはっきりとは分かりません。明らかな拉致未遂ならともかく、ちょっと殴った、露出したという程度なら、犯人が捕まっても公表されることもないので、どんな人が、なぜやっているのかも分かりません。日本中で、どうしてこんなにコトリが増えてしまったのか、誰か理由を知っている人はいますか？

大きなワクで考えれば、みんな退屈でいらだっているのだ、ということができるかもしれません。失業者か、やりたいことが見つからずにイライラを募らせている人が多いというかと思います。しかし、だからといってなぜ子どもに向かうのか。弱いからだということもできますが、でも失業者があふれる国はほかにもあり、日本にもそういう時代があったけれど、コトリが増えたという話はあまり聞きません。

どうやってコトリから子どもを守るかという話もしていかなければならないのですが、そもそもコトリがなぜ増えたのかという点が、今は一番気になります。

■投票率はなぜ上がらない？

次は選挙の話。

総選挙の投票率は、59％で、史上2番目に悪い記録だったとか。どうしてこれほど投票率が悪いのでしょうか？　ある意味、国民の6割もが投票という同じ行動をとること自体、今の時代の中では奇跡なのだという言い方もできてしまうのかもしれませんが、投票という最も重要な政治行動に、これほど関心が薄いことを、どう考えたらいいのかよくわからなくていつも悩みます。

自分が投票に行ってもいかなくても結果は変わらないと思っているからでしょうか。確かに投票という行為は、何を選んでいるかわかりにくい行為です。マニフェスト選挙になったとはいえ、「外交政策は自民党」「福祉政策は民主党」と選びたいのに選べないとか、あの候補に入れたいのに、自分の選挙区じゃないとか、言いたいことが伝わっていないかんじがつきまといます。

だったら、政策ごとに国民に聞く、直接民主制がいいじゃないかという意見もありますが、それだったら投票率（政治的意思表明の率）は上がるのでしょうか？

投票という意思表明をしない人たちは、どのように考えているのかが気になります。隣の人が自分と同じ行動をとってくれているだろうからいいや、という「どうせ誰かと同じ」感覚なのか。それとも「煮るなと焼くなと好きにしてくれ」という＜まる投げ＞感覚なのか。もともと未来に絶望しているのでしょうか。オウム真理教のハルマゲドン思想のように、何をやってもムダだから、いったんリセットするしかない、という考えなのかもしれません。

■知恵市場はどこへ？

最後に、知恵市場の話。今のコミトンの形になってそろそろ丸2年になるので、このままもう少し続けるか、リニュアルするか、どんな方向になればいいか、考えています。

ひとつの方向として、ワークショップのような、実際に顔を合わせる会を増やすようなアプローチもあるなあと思っているのですが、距離的に離れている人に不利になるのが困りものです。

目的は当初から変わっていなくて、Quality of lifeの高い生き方を探り、それを実践する人を増やし、そういう生き方のための支援をすることです。そのために、今どのようなアプローチをしていけばいいのか、これも今感じている素朴な疑問です。

ぜひみなさんの考えも聞かせてください。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

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