202P_LD20集中するか、時間をかけてやるか

photo by paco.

「20代のライフデザイン」ネタもだいぶコンテンツが増えてきました。特に20代の方、参考になっているといいのですが、一連の内容について、感想や、もっとここが知りたいと言った疑問などはいつでもお待ちしています。

今回の内容に限らず、「こんなことはどうなんだろう？」という点があればお寄せください。

さて、今回は、「やりたいことをやる」時のふたつの考えた方、

(1)やりたいことを実現するには、フリーターになるなどして集中したほうがいい
(2)ひまな仕事を選んで、ゆっくりやったほうがいい

について考えたいと思います。

■安全策はとりたい、のは当然

僕も同じだったのでよくわかるのですが、20代、特に学生時代など、20代前半では、やりたいことがあったときに、それを仕事にできるとは思えないものです。いずれは仕事に、と思うものの、長い修行期間がいるだろうとか、うまくいかないときに生活できなくなる、といった理由が頭に浮かんでしまい（本当はこういう理由は大人たちがインプットするのですが）、すぐにはできないもの、すぐにチャレンジしない方がいいものと思ってしまいがちです。そこで、やりたいことをいきなり仕事にする代わりに、まず一定の収入を確保してから、余裕の部分でやりたいことをやろうと考えるわけです。

その方法のひとつとして、「時間的に余裕がある仕事に就き、余暇にやりたいことをやればいい」と考えるのは、自然なことです。「公務員のような」9時～5時で終わる仕事について、仕事以外の余った時間を自分の好きなこと、たとえば音楽をやるとか、小説を書くといったことにあて、その間に力をつけて、コンテストに出たり、賞に応募するなどでチャンスをつかみ、本業にする、という考え方です。うまくいかなければそのまま公務員でいればいい。

確かにこれはひとつの理想だし、こういうやり方でやりたことを実現した人もいます。しかし、実際にはそう簡単なことではありません。やりたいことが実現できるとは限らないので、背水の陣を敷いて退路を断つことがどんな場合もいいことだとはいえませんが、安全すぎる道、うまくいきそうな道にも、危険が待っています。

■安全策が、やりたいことを阻害する

第一のリスクは、そもそも「時間に余裕がある仕事」があるのか、という問題です。公務員や先生は、定時で帰れると思っている人もいるようですが、すでに過去の話で、定時で帰れる公務員は今や少数派。たまたま配属先によっては定時で帰れる職場もあるかもしれませんが、3年程度でどんどん配置転換がありますから、一時的に楽な仕事に就いていても、いつ多忙なセクションに移るかわかりません。教員も同じです。教師は仕事に熱意を持てばやることは限りなくある仕事で、以前は長かった夏休みも今は子どもは休みでも教員は出勤日がたくさんあります。身分が安定した職業で時間に余裕がある仕事というものが、今はほとんど存在しないのです。このあたりのことを理解せずに公務員になってみたら、やりたいことをやる時間はほとんどなく、気がついたら何をやりたかったのかも忘れてしまった、ということもあり得ること。結局仕事を辞めてフリーターとしてチャレンジするという人もたくさんいます。

第二のリスクは、仕事のワナです。時間に余裕がある仕事といっても、1日最低でも7時間、週5日やっていれば、愛着も湧くしおもしろさもわかってきます。仕事はそこそこで手を抜いて、自分の時間を確保するつもりが、やらなくてすますことのできる残業をやってしまう、同僚と飲みに行ってしまうという時間の使い方をしてしまうのが人間です。そういう誘惑を断ち切って、本来やりたかったことをやれるとしたら、それはかなり意志が強く、目的意識が強い人といえるでしょう。それだけの目的意識を、安定した仕事を砥用ながらも、維持できるかどうかと考えると、これはかなり困難なことを目指しているといえます。特に難しくなるのが入社3～5年目ぐらいで、仕事も任されるようになるし、おもしろさもわかってくると、社会に出てから続けられた人も、このあたりでだんだん脱落してしまうのです。実際のところ、28歳になっても学生時代の趣味を続けている人は、ごく少数派です。

仕事に就きながらも、やりたいことをやり続けられるとしたら、だということですから、おそらくフリーターで時間の自由を得ることができれば、もっとしっかりやりたいことをやれる人のはずです。おおざっぱにいってしまえば、正社員や公務員の傍らやりたいことをやり続けることは、フリーターとしてやり続けるよりも、かなり意志の力が必要で、道の困難さという点ではおそらくあまり変わらないと思います。もちろん、うまくいかなかったときに安全なのは正社員や公務員でしょうが、悔いが残るリスクはかえって高いでしょう。

少なくともいえることは、フリーターとしてチャレンジするにせよ、社員や公務員の立場でチャレンジするにせよ、やりたいことをやっていくためには、かなりの意志の力が必要なことには代わりがありません。「余裕のある仕事に就きながら、やりたいことをやっていく」というアプローチは、ぱっと見ほど「おいしい」やり方ではないのです。

■20代は移り気、という特性を考える

「定時で帰れる職業について、残った時間でやりたいことをやる」という方法は、「本当はやりたいことに集中したいけれど、人生の安全策のために、集中しないようにしておく。その代わり夢の実現までに多少時間がかかってもいい」ということです。この考え方は、「1日当たりにかけられる時間×期間＝成功」という公式が常に成り立つという発想から生まれていることに注目する必要があります。

安全策をとらずに（フリーターになって）3年間、やりたいことに集中する方法と比べると、公務員になって少しずつやる場合は、やりたいことに関われる時間が1日あたりでは平均的に2分の1になるはずなので、実現するまで2倍の期間かかるかもしれない、というわけです。

しかし、これは本当でしょうか？　特に、20代という若いときに限定して考えてみます。

若さの特徴はいろいろありますが、ここと思いこんだらまっすぐ進めるところにあります。ものごとをゼロかイチかに切り分けて考える傾向があり、こっちがいい、あっちはダメだと決めれば、どんどん進むことができます（しかし30代、40代と経験を積むにつれて、ものごとはゼロかイチかと切り分けることはできないし、それにはあまり意味がないというように考えるようになるのです）。この結果、まっすぐ目標に進むように見えるのですが、実はそういう結果にはなりません。「Aがいい、Bではダメだ」とぱっと決めてしまえるということは、Aをやってみた結果が思わしくないと、「やっぱりAはダメだ、Cにしよう」とすばやく考えを変えることにつながります。思いこんだらまっすぐ進むのですが、長くまっすぐ進めるとは限らない。その結果、あちこち気が移ってしまうのです。

もちろんこれはあくまで傾向なので、反対の人もいるはずです。若いうちほどものが決められずにいつも悩んでしまい、次第に吹っ切れるようになる、という人です。しかしこういう人も、思い悩んでいるうちに、うまく決められずにあちこち気が移って絞れない、という結果は同じです。

このような特徴がある20代の時に、「1日当たりにかけられる時間×期間＝成功」という公式が成り立つと考えて、「公務員をやりながら音楽もやる」という道を選ぶと、やり続ける期間が長くなってしまい、その間に気が移って、結局長期間やり続けて成功につなげるという流れにしにくいのです。

僕は著書「35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」のなかで、「時間をかけてゆっくり進む」という方法を提案していますが、この方法ができるのは、30代後半になり、気が移りにくくなったり、時間感覚が若い頃と代わってきているから進められる方法で、20代のライフデザインは、30代後半以降とは違うアプローチが必要なのです。

■20代は期間を短くして集中したほうがいい

こうして考えてみると、20代のライフデザインで、「やりたいことがあるけれど、安全策のために、公務員（のようなタイプの）仕事を選び、余った時間で好きなことをやる」というやり方は、実は大きなリスクを抱えることを意味します。期間をかけることでうまくいく30代後半以降と、期間をかけない方がうまくいく20代との違いははっきりとあると思います。

さらにいえば、20代であれば、挫折して別の道を選ぼうとしたときに、35歳以後より、チャンスがずっと多いということも重要です。多くの求人広告が35歳あたりに応募の上限を設定していますが、このことは逆に、20代であれば、何かにチャレンジして挫折しても、企業社会が受け入れる意志があるということを意味します。もちろん、実際に採用になるかどうかは個別の問題ですが、いったんメインストリートからはずれると、修正できないという人がいるとしたら、それは思いこみに過ぎません。

このように考えてくると、20代で何かやりたいことが見えている場合は、なるべくなら、やりたいことに集中して挑戦する方が可能性が、総合的に見てよい結果になる可能性が高そうだということがわかります。よく「若いうちはどんどん挑戦して」と言いますが、アバウトな意見に聞こえたとしても、理由がないわけではないのです。

もちろん、「フリーターになってでも挑戦する」ことのリスクは常にありますが、この点については前の連載でも考えているので、そちらを参照してください。

基本的に20代は、チャレンジをためらうべきではないのです。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

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