190P LD20 間口は広げておいたほうがいいか

photo by paco.

今回から、20代のライフデザインについて、またまた書いていこうと思います。タイトルのLD20はLife Design for 20sの略です。今年の夏から、意図的に20代～30代前半の人たちと話をしてきたのですが、特に気になっていたのは、35歳以降のライフデザインとどこが違うのかという点です。

これまで、特に20代の人に向け手を意識して、

162P ライフデザイン20代のアプローチ
170P 20代でスケール感のあることを考える
172P 未来を考えながら、ライフデザインする
176P 10年先を見ていく生き方

などを書いてきました。しかし、35歳以後とどこが違うのか、僕自身うまくつかめなかったのですが、それがだんだん見えてきたので、そのあたりを中心、何回かに分けて連載していきます。ひょっとしたら長い連載になるかもしれません。

■自分は間口を広げ、誰かが拾ってくれるのを待つ？

20代、特に大学生から25歳ぐらいまでの時に特徴的だなと感じたのが、誰かに決めてもらおうという受け身のメンタリティです。特に就職活動は、自分の生き方を決める大事なタイミングなのですが、受け身の考え方が支配的です。

環境関係の仕事につきたいと相談してきたA君は、就職活動の方向性として、一般企業、国家公務員、地方公務員、教職という復習のルートを考えています。たしかに環境という分野はまだ仕事としては一般的ではなく、狭き門です。環境に力を入れている企業の側も、環境ばかりやっているわけではないし、「環境のことをやりたい」と希望してくる学生に対しては警戒しがちです。絶対的な「入り口」が狭いので、どうしてもたくさんの入り口を用意したくなるのはわかるのですが、それは危険なアプローチだと感じました。

一般企業で環境に力を入れている企業を探し、説明会やセミナーを回る。でも実際のところ、セミナーの枠はそう多くないし、人気企業のセミナーに入り込むには数時間待ちも珍しくない。だったら、その時間でもう1社回った方がいいだろうし、それでも採用を勝ち取れる可能性は高くない。だったら、公務員試験も受ける準備をしておいた方がいいのではないか。公務員ならまずは試験の成績ではかなり確率が上がるし、自分の努力で成績は上げられるから、可能性はある。公務員なら環境省でレンジャー（自然保護員）の試験を受けるか、県や市で林業関係の仕事を志望するか。教職課程も取ってあるので、教育実習に行っておけば教員免許も取れる……。

こういう考え方は、僕にも身に覚えがあるし、20代前半の場合、「とにかく自分は間口を広げる努力をして、誰かがその中で自分を拾ってくれるのを待つ」というメンタリティから来る行動パターンなのだと思います。自分は選ぶ立場にはないので、せめて選んでくれる人と出会う確率を上げる、という考え方で、たしかに合理性があります。

しかし、確率を上げるよりも考えておかなければならないのは、自分が自分の人生の主導権を握っているという時間を持ち続けられるようにすることです。

■自分で決めない限り、人生の主導権がとれない

でも、合理的であるが故に、逆にその結果、大事なものを失ってしまう可能性があります。「自分の人生の主導権を少しでも握れるか」という観点なのですが、主導権を握るかどうかの重要なポイントは、ある結果が自分の努力や自分が望んだことの結果だと思えるかどうか、です。自分自身は「間口を広げる」努力に注力していて、広げた結果望む仕事に就けたとしても、その結果は自分でつかみ取ったものではなく、やはり「誰かが決めてくれたこと」「偶然の産物」を感じてしまいます。もちろん自分も努力をしているのですが、「自分は可能性を広げ、人が選んでくれるのを待つ」という姿勢では、希望が叶っても、「自分でつかみ取ったという気持ちがしないのです。

自分でつかみ取る感覚を、若いうちに実感として持っておくことは、その後の人生を大きく左右します。自分の人生の主導権とは、結局、今ある状況は誰のものでもない、自分が望んで得たものだという気持ちを持っている状態を指すからです。生きていく中では、転職で仕事を変ることもあるし、社内での異動もあるし、結婚や引越など、大小の転換点があります。そのひとつひとつについて、「この転換は、自分が望み、それに向けて努力し、その結果として今の自分がある」と感じ続けられる人は、自分の人生の主導権をとっている気持ちがするものだし、満足度も高くなるのです。

とはいえ、少し先回りして言っておくと、自分で結果を出したと思いこみすぎるのもよくないことで、どんな小さなことでも周囲の誰かの支援の結果だということを知っていることも重要です。自分の努力や願いが主な力になって結果を招き寄せ、それを感じ取った誰かがそれを支援してくれたという、気持ちを持てることだと言えます。

■焦点を絞ればいい？

もともと「自分は間口を広げ、人に選んでもらう」という考え方は、「やりたいことはあるけれど、できるかどうかわからない、だからチャンスを広げるために、間口を広げる」という考え方でした。

これと対照的なアプローチが、自分がやりたいことに焦点を合わせてピンポイントで攻めていくやり方です。たとえば編集者になりたい人が、雑誌社や出版社ばかりを回り、教師や公務員になる道は考えないというような場合です。「ぜひこれをやりたい！」「これしか考えていません」と強いメッセージを相手に伝えることができます。

こういった「決め打ち」はたしかにかっこはいいし、相手に与えるインパクトの強さもあるのですが、逆に全面的に敗北してしまう可能性もあります。また、「出版業界以外、まったく考えていません」という学生が訪問すると、意欲があると感じる反面、凝り固まっていて使いにくいと感じさせてしまう場合が多いのです。学生の段階で特定の職種に強い志望があるという場合は、その職種に対して勝手なあこがれを持っている可能性があり、あこがれ（思いこみ）と現実のギャップを感じてやめてしまう危険を企業は考えます。こういったことからも志望を絞り込みすぎることが、可能性を広げることにつながっていないのです。

■「滑り止め」は捨てる

たとえば環境の仕事に就きたいなら、まず環境に関われない仕事は候補からはずすべきです。「環境関連の民間企業」「レンジャー」は直接環境に関係があるからいいとして、教員になるという選択肢ははずすべきです。多くの大学で教職課程があり、教師はそれなりにステイタスのある職業ですから、「一応取っておこう」と考えることは不思議ではないのですが、すでに自分のモードは「環境関係の仕事に就く」ことなので、この点は絞り込むべきです。

ところが、これがなかなかできない。就職活動にいたるまでの間に、すでにかなりの時間を教職課程のために費やしてしまったので、その犠牲の「モトを取ろう」とするのです。しかし、自分が望まない人生に向かう道をつくるために、さらに自分の貴重な時間を使って教育実習をするというのは、意味のないことです。チャレンジしたという実績は残るでしょうが、それこそ自己満足に過ぎず、結果につながらない自己満足は自分の自信になるのではなく、「いざとなれば教員がある」というもってはいけない予防線をつくってしまうことになります。自分がやりたいことがあるなら、そのやりたいことの範囲の中で予防線をつくるべきで、やりたいカテゴリーの外に予防線を張ってはいけないのです。今の日本ではフリーターを覚悟すれば向こう10年は食うに困ることはないし、不安定な立場のフリーターのほうが、生活のために教員になるよりずっとましなのです。

ところで、生活のために教員になることは、よくないことなのでしょうか？　この問いは「自分の好きなことを趣味でやり続けるために、そこそこ稼げて時間の余裕のある仕事」につくといいという考え方です。安全で、かつやりたいこともできそうなおいしい道に見えるのですが、実はこれがくせ者です。

実際には、世の中に「時間の余裕のある仕事」はまず存在していません。教員も、いぜんは夏休みは子どもと一緒に休めたのですが、今は出勤してさまざまな仕事をするのが当然になっています。日常の仕事も、長時間労働になりやすく、クラブ活動の顧問や地域活動など、教える仕事以外のものが有形無形で時間を食っていきます。結婚して家庭を持てば、残った時間は家庭のために使うことになります。自分のやりたいことに使える時間をうまくつくれる人は、実際には非常にまれです。また、仕事というのは不思議なもので、「片手間でやろう」としても、多くの人は「あまり望んだ仕事ではなかったけれど、やってみたらおもしろかった」と、のめり込んでしまうのです。こうなるともともと何をやりたかったかはどうでもよくなり、自分ではそれなりにハッピーなのですが、その人生を自分が主導権を取って選びとったという実感はありません。

実際、僕の友人知人でも、仕事はある余裕のあるものを選び、趣味として本来やりたいことをやるといっていた人はたくさんいますが、実際そんなことができている人はほとんどいません。やりたいことを実際にやれている人は、それを仕事にするか、仕事にならなくても、仕事と言えるぐらい、それに時間や力を投入しているし、それでも仕事にしていない人が到達できるところは、それを仕事にしている人より低いことがほとんどなのです。

自分が望む道を歩きたいなら、「滑り止め」という意味だけの選択肢は捨てるべきです。というより、それは教員ではなく、フリーターでいいでしょう。滑り止めなら、そのぐらいぎりぎりの覚悟にすべきです。

■防衛策としての「資格」や「MBA」

ここまでは就職を前にした学生を例に考えてきましたが、こういう傾向は社会人になってからも共通しています。

いったん会社に入った20代が、中小企業診断士や税理士、宅建主任などの資格の勉強をする傾向がありますが、これもほとんどの場合、「間口を広げる」「いざというときの滑り止めや安全装置」という目的でしょう。MBA（経営学修士号）を取得する勉強をしたり、語学の勉強というのも同じ傾向が見られます。

もちろんこういった勉強をしている人すべてが安全策、安心のために学んでいるわけではありません。ただ、今後の自分の進路に対して、「間口を広げ、どれかが身を助けてくれる」という発想をしている限り、自分の人生の主導権を取っていくことはできません。この点だけは、よく理解しておく必要があります。

いざというときの安全策のためにこういった勉強をしておくと、自分の潜在能力が上がり、状況が厳しくなっても、どこかの誰かが自分の能力を買ってくれる可能性がある、と考えているのだと思います。たしかにそう言うことはなくはないでしょう。しかし、この場合でも自分で決めずに、人に決めてもらうというパターンにははまっているという点ではかわりがありません。

人に決めてもらう生き方は、実は楽な生き方です。人に決めてもらった結果が自分にとって気に入らないものであれば、それを人のせいにできるからです。自分で決めれば、その結果を自分が引き受けなければならず、人のせいにできないか、人のせいにしてしまえば自分がみじめになります。人に決めてもらうのは、あとで人のせいにできるという読みが働いているのです。でも、自分ものごとを選び、決め、その結果を引き受けるという経験こそ、実は自分の人生の主導権を握っているということにほかなりません。決めることを恐れて人に任せている限り、いきいきとした人生はやってこないのです。

自分の人生の主導権を自分が握り、生き方を自分がデザインするためには、人に決めてもらうというメンタリティを捨てることが何より重要です。誰かに選ばれるのではなく、自分が選ぶ。そのためには、間口を広げるための行動や、つぶしがきくようにするための行動を取らないようにすることが、まず第一歩なのです。その上で、何をすればいいのかを考えていく必要があるのですが、この点については回を改めて書いていこうと思います。

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渡辺パコ。ライター、デザイナー、コンサルタント、グロービス・マネジメント・スクール講師。
1960年東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒。85年採用広告プロダクションでコピーライター、クリエイティブディレクターとして広告、会社案内の制作、PR戦略の企画立案などを担当。その後、独立して90年に有限会社水族館文庫を設立。94年から著作活動を開始する一方、Webサイトの設立・運営にアドバイザーとして積極的に参画、ビジネスインキュベーションを担当。雑誌などへの執筆活動も行う。著書に「渡辺パコの35歳からは好きなことでお金を稼ぐ」「環境経営の教科書」「人生に役立つ論理力トレーニング」（幻冬舎）「＜意思伝達編＞論理力を鍛えるトレーニングブック」「論理力を鍛えるトレーニングブック」「手にとるようにIT経営がわかる本」「図解＆キーワードで読み解く通信業界」（かんき出版）、「LANの本質」、「生命保険がわかる本」など。

☆ポートレイト撮影：川口愛

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