047 MBO？－半年を振り返ってみると

2002年がスタートしてはや一月がたとうとしていますね。一年の計を立てられた方、スタートの具合はどうでしょう？　僕は今年の前半はほとんど旅行に使うのと、その後は旅行がどういう影響を与えるかによって変わってくるので計画をあまり立てていません。その代わり、というわけじゃないですが、このタイミングで過去半年を振り返ってみました。今回はこの話を書いてみたいと思います。やっていることや状況は普通の人とだいぶ違うと思いますが、根底では参考になることもあるのでは、と思っています。

さて、半年前と言えばちょうど会社をやめたタイミングでした。「このままじゃいけない」「もっと、やりたいことを、やりたいやり方でやりたい」と考えてやめた（コミトン019－僕が会社をやめる理由）のですが、実際、どうなったか。

■今、どう感じているか？

普通レビューというと何をやったという話になるのですが、それに入る前にちょっと、今どう感じているかという話をしたいと思います。

まず、一番気に入っているのは「やりたいことだけやれる」ということです。会社をやめる前から、自分のポリシーと会社のポリシーはかなり一致していたし、ワークスタイルや仕事への態度については「それはサラリーマンとは言わない」とも言われていたのですが、それでもマネジメント・スクール事業の責任者という「箱」には僕がやりたい仕事以外も入っていました。

今は「箱」で仕事をしていないので、やりたい仕事だけピックアップして（ばら売りですね）やることができます。これは今も週に2.5日はグロービス(前にいた会社）を相手に仕事をしていること、そこには僕がやれそうな事がたくさんあって、限られた時間の中でやるには仕事を選ばざるを得ないという事情が大きく影響しています。ということはグロービスの状況やグロービスとの関係が変われば変わってしまうわけで、常にリスクは考慮しておく必要がありますが、短期的にはその気配はなさそうです。

もう一つ気に入っているのは、時間があるということ。思っていたよりはのんびりできていないし、もっと時間が欲しいとも思うのですが、以前はできなかったことをやれている、という点で時間がある。

一方で「怖い」という感覚もあります。自分が遅れてしまうんじゃないか、ということです。組織の中にいれば目標や評価があるからそれを見ながら走ります。僕はどちらかというとそういう強制力がなくとも走れる方なのですが、それでも「さぼりそうだな」という不安を感じます。たとえて言うなら、マラソンで集団で走っているのと、まわりがいなくなって一人旅になっている違いのようですね。特にグロービスはペースの速い集団だったのでそれを感じました。

そして「さびしい」という感覚。自由は好きなのだけど一人でいることはきらいな人間なので、自分の「ホーム」が家以外にないというのはちょっとさびしさがありました。それでも僕の場合は前の職場と引き続きやっていて、名刺ももらっているのでその度合いは低かったと思います。これがゼロベースで独立していればもっとそういう感じがしたことでしょう。

もう一つ、「なるほどねえ」と思ったのは、カネの話です。上のような契約があったのでグロービスから引き続き支払があるのですが、当然のことながら時間を減らしているので前より額が全然少ない。それはもちろん計算していたことなのだけど、感覚的には、なんだか何年も前の自分に戻ってしまったような、自分の価値がそれだけになってしまったような錯覚に一瞬なるのでした。投資銀行などで数千万から億の額をもらっている人が、仕事はもう変わりたいと思っていても収入を下げられなくて移れないという話を聞くことをありますが、これがその感覚なのかもしれないと思いました。

これらのある意味ネガティブな感覚は今でも消えたわけではありません。しかし、プラス面は捨てがたいし、変化はマイルドにするようなやり方を取っているので、自分がその中でどうなっていくかを見て決めればいいや、と思っています。

■変化のプロデューサーへの道－英語教育のスタート

そして、何をやってきたか、という話です。半年前に思っていたのは「変化のプロデューサーとして認知を得るためのステップを刻みたい」ということでした。実はこの時にイメージしていたのとは違う形になっているのだけど、正しいやり方で動けているんじゃないか、と思っています。

具体的には英語教育です。10年も英語を勉強しても使えるようにならない受験英語教育を変えようという企画で、昨年の11月に第一期クラスをスタートさせ、2月から第2期のクラスが始まります（コミトン033－日本の英語教育を変える？、 043－日本の英語教育を変える？(part2)）。

変化のプロデューサーということで当初考えていたのと違っていることとは次のことです。半年前の自分は、「変化のプロデュース」というのはど～～ん！とぶちあげてがんがん展開できるほどよい、今は少しずつやっていても、いずれはそういう方向に持っていく、と思っていました。しかし、911テロを契機に知ることになったアフガニスタンでの中村哲さんの地道ながら着実に前進するやり方や、英語教育を携わるきっかけとなった大学時代の恩師の、やっていることそのものを楽しんだり、一人一人の受講生と対話しながら教えていく姿勢に触れるうちに少し変わってきました。

「木を見て森を見ず」とよく言いますが、今の世界、特に資本主義社会では逆に「森をみて木を見ず」の傾向がある。それもかなり瞬間的にしか見ない。でも、それでは本当の変化は起きていないおそれがあるし、一番大きな楽しさ－人が喜ぶ顔が見られる、いっしょにうれしい、というところを落としてしまう恐れがある。そんなことを考えて、当初のやり方とは違った、じっくり一歩ずつ進むやり方に変わってきました。このペースでやっていて本当に変わるのか？という不安はないわけじゃないけれども、本当の変化を起こすのはこういう方法じゃないか、と今は思っています。

なお、このプロジェクトには「英語」以外でも変化のきっかけになるかもと思っていることがあります。一つには「サラリーマンでないワーカーの増加」ということです。たとえば、今、かなりのインテリジェンスを持ちながらフルタイムで働くほどの時間を確保できないために仕事をしていない人(特に女性)がいます。こういう人の中から講師をやる人が出てくるといったことですね。そういうチョイスが出てくると、ワークスタイルやさらにはライフスタイルにもバラエティが出てくるかもしれない。

もう一つには「ローリスクにビジネスをスタートする」ということです。今回の英語教室は固定費をほとんどゼロにしていることでリスクを下げています（変動費は売上が上がらなければ出ないコストなのでリスクとしては低い）。具体的には講師はパートタイム、スペースは時間貸し、広告宣伝はしない（知恵市場と口コミに頼る）というやり方です。こういったやり方が広まってくると、もっと「やりたいからやる」「必要とされているからやる」「必要なくなったからやめる、他のことに変える」とできるんじゃないか、と思っています。

■自分の世界をぐ～～～～んと広げる

さて、英語教育以外にこの半年で新たにやったと言えるのは、世界旅行の計画です。「僕が会社をやめる理由」で「三つ目に考えたのは、自分の世界をぐ～～～～んと広げよう、ということです」「世界放浪の旅に出てみたらどうかな」と書いたのですが、どうやら実現しそうです（コミトン045－「違った世界の生活を知る旅（計画編）」）。2月から5月までの間に、エチオピア、南アフリカ、カオハガン島（南の島）、ブラジル、トルコ・中東に行くことになります。

最初の目的地エチオピアへの出発までもう一週間ちょっとなのに、まだまだいろいろ準備するべきこと、見えていないことがあって、ちょっと不安なのだけど、とにかくここまでこぎつけたことはよかった。なぜこぎつけられたのかを考えてみると主に三つの理由があったのではないかと思います（もちろん、自由が利く境遇にあるとか、資金があるとかもあるけれども、それ以外ですね）。

一つはこの旅行を本当にやりたいことに仕立てあげていった、ということです。僕にとってもともと世界旅行(放浪)は「やれたらいいなあ」とあこがれたり (wish)、「やったら自分のためになるだろうなあ」(better)と思うものではあるけれども、どうしてもやりたい(want)かというとそれほどやりたいものではありませんでした。自分は、旅行好きの人がよくいう「ハプニングが楽しいんだよ」という感覚の人間ではないし、サバイバルも得意ではない、知らない人の間に入っていくのも苦手、調査とか情報収集もふだんは全然やらないタイプなのです。

でも、いろいろな場所について、そこで生活した体験を書いた本を読んだり、現地の人々の生活と表情を撮った写真集を見たりするうちに、この生活を自分が体験したらどう感じるだろう？　ここの人たちは何をどう考えているのだろう？と興味を感じ始めました。また、この人たちと話してみたい、と思い始めたのです。そうなると、ちょっとくらい苦手なことは「ま、それも一つの体験だよね」と思えるようになります。

そして、自分にでもできるようなやり方、思わずやりたくなるやり方を模索しだします。たとえばいきなり飛び込んでいくのが苦手なら、現地にコネクションを作れればいい。そういう状態でいければ自分にとって快適かつ得意なスタイルになる。そんな感じで、やりたいと思えるようなものに仕立て上げていったわけです。

二つ目の理由は、「世界旅行をしようと思っている」と公言してきたことだったと思います。人に会って「最近どうです？」と聞かれるたびに「今、世界旅行に行こうと思っている」と話をしたり、「趣味は旅行です」という人に会えば「あ、今度アフリカに行こうと思っているのだけど、教えて」と話すと相手からいろいろな反応が返ってくる。だいたいポジティブな反応なので、自分がだんだんその気になってくる。話していてもおもしろいので盛り上がるし、もちろんそこからコネクションが見つかるケースもあります。

そして三つ目の理由は、girl friendといっしょに考えていったことでした。二人のプロジェクトとなったことで、それだけ推進力が上がった。あまり推進ばかりしていると疲れてしまうのでそこは気をつける必要がありますが。

さて、こうやって実現にこぎつけた世界旅行がどういう影響を自分に及ぼすのか、これはまだわかりません。けっこう影響があるように思うので（だからこそ行くのですが）、帰ってからのことはまだあまり決めにいる状態です。

■週休5日がもたらしたもの

三つ目は以前に「週休５日」と書いたワークスタイルがもたらしたものです。まず以前にイメージしていたのは下のようなことでした。

いわゆる仕事をするのは週２日。自分が確実に高い付加価値を出せてかつ対価を受け取れることに週２日を使い、ここで食い扶持を稼ぐ。一方、週２日はしっかり休む。そして残りの３日を社会的な活動と、まだ海の物とも山の物ともわからないビジネスに費やす。この３日も休みとカウントするなら、週休５日。そういうワークスタイルはどうかなあと。

現状がどうなっているかというと、上の基準で言うと週休４日くらいになっています。予定よりは少ないけれども時間は取れているということですね。これによる効果は二つありました。一つ目は、仕事に関係ないことで人に会う機会が増えたことです。時間が増えたことと上の旅行の計画があったことが合わさって、特に11月あたりからは毎週のように人に会っています。これは興味深い人との出会いを増やしました。

二つ目は新しいことをじっくりやれるようになったことです。具体的には1月から笙（しょう－雅楽で使われる管楽器）を習い始めました。始めたのはこのようについ最近なのですが、ここにたどりつくための時間をかけられたことがよかった。行動力・決断力のある人は別として、この、調べたり考えたりする時間がなかなかかけられないために新しいことが始められないことは多いと思うのです。

僕の場合は、旅先でのコミュニケーションの道具が欲しいと思ったのがスタートで、結局自分の場合は音楽だろうというのにしばらくして行き着き、次に持ち運びができる楽器を習おうと探しはじめました。最初はパンフルートを考えていたのが、東儀秀樹さんの演奏に触れるうちにどうせなら日本古来の楽器がよいだろうと興味が篳篥（ひちりき）に移り、篳篥の先生をさがしていたらgirl friendが彼女のネットワークの中から知り合いの知り合いの知り合いに雅楽をできる人を見つけてくれたのでした。その人はお坊さんで、グレゴリオ聖歌と雅楽そして声明（しょうみょう）の融合をトライしたCDをプロデュースするなど、話していておもしろかったのと、見せられた笙という楽器がかっこよかった(^_^)ので、ひちりきはおいて笙を習うことにしました。(笙についておもしろかったページはこちら）

1月からは旅行前に少しまとめてやってこうと週に2回、個人レッスンでやって稽古をしていますが、稽古自体と同じくらい、お坊さんとの雑談がおもしろい。車について（彼の車はプジョー）、宮崎映画について、旅行についてなど、笙とも雅楽とも全然関係ない話をしていますが、その後ろに仏教や雅楽との考え方のつながりが見える感じがします。こんなことを平日の昼間にやっていられるのはやはり週休4日のご利益だなあと思うのでした。

■もっともっとやりたい

さて、これまでは出来たことについて書いてきましたが、もちろん課題もあります。一つには、もっともっとやりたい、と感じていることです。でも時間が足りない。たとえば知恵市場ももっとやりたいと思っています。たとえば、今考えたいトピックをメーリング・リストに投げかけていろいろな人と考えたい。でも、時間が足りなくてまだあまり出来ていません。またグロービスで手伝っている仕事についても、ある程度貢献してはいるものの、納得できるような成果を上げるためにはもっと深く考え、もっと多くのアクションを取りたいと感じています。さらには、少しずつですが、他にもいっしょにやろうよ、という話が出てきています。

しかし問題は今のままだと時間が足りないことです。どれかをはずすか、スピードを上げるか、やり方を変えるか。納得できる成果を上げるためにも、楽しくやるためにも、考える必要があります。今回の旅行中はネットがつながったとしてもあえて普段の仕事はやらないように予定しているので、その間にこれを考えられるかな、と思っているのですが、でも、旅行中は旅行のことしか考えられないかなあ(^_^)。まあ、ここまでレビューしただけでも、自分が正しい方向に向かっているのかどうか、何が課題なのかをチェックできたからよいかな、と思っています。

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Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。成長期の事業マネジメントを中心に外部からグロービスに関わる一方、「日本人のQuality of Life(QOL)アップ」をキーワードに知恵市場に続くプロジェクトをプロデュースしていく予定。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

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