093 2003年は何をする?

2003年もスタートして早や半月が過ぎようとしていますね。どんなスタートになったでしょうか。僕は昨年12月に入った頃から徐々にお休みモードに入って時間に少し余裕を持たせながら、2002年を振り返ったり、2003年について考えたりしていました。そこで今回はこのあたりをテーマにしたいと思います。なお、これに合わせてコミトン047「MBO?-半年を振り返ってみると」およびコミトン067「旅を踏まえた次の一歩」を見てもらうと、1年前、および半年前との対比が出来ておもしろいと思います。

■2002年を振り返って～示唆の大きかった世界旅行

まずなんといっても2月から5月の世界旅行が大きかった。エチオピア、南アフリカ、フィリピンの小島、ブラジル、トルコ、クウェートにそれぞれ1週間から3週間行って、なるべく現地の生活を見、そこの人たちと話すことを試みました。

まず第一の成果は、これらの土地を「同じ世界」として捉えられるようになったことです。新聞にこういうところのニュースが載ると(そもそもあまり載らないんだけど)「おっ」と関心を持って読むようになりました。そしてその時、風景やそこで会った人たちの顔が浮かぶ。その結果「世界はどうあるべきか」が、前より実感を持って考えられるようになってきました。

次に、自分の考える領域が拡がった。というか目の前のことを考える時の比較/参照ポイントが多様になりました。キーワードにしてみると下のような感じです。これじゃ短すぎてなぞなぞだという人は知恵市場のメニューから「国際理解」の下の各地に関する記事をあたってみてください。

このように参照ポイントが出来たことで、「普通こうだ」に対してより厳しくなれるようになった。その気か、ものごとを考える時に本質に近づける度合いが増えた気がします。

そして成果として一番大きかったのは、これからしばらく取り組むテーマ(=課題)が見えてきたということです。それは次のようなことです。これらの国を見ていると、普通に見ればずっと恵まれているはずの日本(人)がなぜか元気ない、と感じてきました。その原因として、

生まれ育ってきたところに根ざすアイデンティティを持てていない
自分が何かの役に立っているとあまり感じられない
「自然」からどんどん離れている

という3点がだんだん自分の中で上がってきた。そしてこれは自分自身もけっして例外ではない。というのも2番目については幸いにしてある程度実感がありますが、他の2点は自分にもあてはまるところがある。つまりこの課題に取り組むというのは、自分の課題に取り組みつつ、まわりの人の役に立てるかもしれないということです。そんな一石二鳥な課題が見えてきたことは、とても大きな成果でした。とは言うものの、上の課題はそれぞれ大きなテーマなので、取り組み方はもちろんこれから詰めていかなければなりません。

最後に、世界旅行は自分のコミュニケーション・スタイルを確認する機会ともなりました。それは自分が「言葉と概念でコミュニケーションする」タイプだということです。人によっては言葉など分からずとも、どんどん相手の懐に入って行ってともだちになることができます。何か特技・技能を持っていてそれがコミュニケーションの道具になる人もいます。僕の場合、そういうものは持ち合わせていなくて、強いて技能を上げれば言葉を使うことや考えること。これは今後の地球のうろつき方を考える上で押さえておくべきところだと思っています。

■2002年を振り返って～英語のシャワーで「店主」の実験

帰ってきてから一番時間をかけていたのは「英語のシャワー」と名づけて約1年前から取り組んでいた英語教育でした。これは今ふりかえってみると(つまり後付けの説明(^_^))「店主」の実験だ、という気がします。「店主」という言葉をいきなり使いましたが、ちょっと説明が要りますね。

上の問題意識の「何かの役に立っていると感じる」というのと「自然」というのに関連して、日本にいわゆる店主的な人が増えるといいのではと最近思っています。もちろんこの店主とは「やりたい」「これはやる価値がある」と思ったことをやっている店主であって、好きでもない家業を親から継いだ店主ではありません。

店主は当然、「自分は歯車の一つでしかない」とか「うちの会社なんかなくなっても大勢に影響はない」と思っている人よりも「何かの役に立っている」という実感は大きいはずです。逆に言えば役に立っていなければ世の中から見捨てられます。またその厳しさは「自然」とも言えます。さらに、お客さんの顔もやったことの結果も、関わっている人も見渡せるというのも「自然」じゃないかな、と思います。

英語のシャワーを1年間やってみて振り返ってみると、なんかそんな「お店」のように感じるのです。少ないスタッフだけで、全員の顔と名前を覚えていられる数のお客さんを相手にしている。英語教育そのものをやっているところは星の数ほどあるし、大手もいる。でも、うちならではのサービスを提供しているという自負はある。

そういう目で英語のシャワーを見てみると、「店」の存在はさらに、お客さんにとっても単なる「客になるために来るところ」以上の意味があるような気がします。というのも、単に英語を勉強するためだけでなく、MLも含めて話をしに来たり、刺激を得るために来る人というのがけっこういる。また運営をいろいろな形でみんな手伝ってくれるのですが、それを楽しんでいる感じがする。手伝ってくれる度合いが大きな場合はこちらも受講料でサービスしたりするのですが、そうであってもなくても、やりたいからやっている。そこには自分が「役に立っている」と感じたり、その人にとって「自然」な場があると感じたりするところがあるのでは、と思います。

こういうことはきっと他でもできるでしょう。たとえばカフェ。あるいは洋服屋さん?　あるいは写真屋さんでも出来そうな気がします。しかし逆に大手サービス業の一店舗では難しいんじゃないか。英語のシャワーを見て「これなら自分も自分のやりたいビジネス(というより商売ですね)で出来そうだ」と思えると元気な店主が増えていいなあ、というのが上で言った「店主の実験」ということです。

というような実験の結果、英語のシャワーもだいぶ「店」らしくなってきました。毎期1クラス(25人)ずつしか新しい人は入っていないのですが、継続の人が多いことでこの1月期は4クラス。グラフィック・デザインをやっている受講生の協力を得てホームページも出来ました。イメージにとても合っていて、気に入っています(^_^)。

そしてもう一つ、あとで「なるほど」と思った効用もありました。フリーになった頃、組織に属していないことで孤独感を感じるのではないかなと思ったことがありました。しかしほとんどそういうことを感じなかったのはおそらく「店」が「場」になったことによるのでしょう。実は僕は、人と話をするのは好きだし、自分の生活の中で不可欠とも言えるのだけど、既存のコミュニティに入っていくのはあまり得意ではありません。そういう人には、自分が場をつくってそこにきてもらった方がむしろやりやすかった、とも言えます。

■2002年を振り返って～知恵市場-ビジネスからライフ・デザインへ

そしてもちろん知恵市場があります。ここ1年、書いてきたものを見ると、ビジネスのネタが多かったエッセンスの時代やコミトン初期と比べて、ライフ・デザイン全体がテーマという感じになってきました。もちろんこれはそのようにしようと考えた結果です。pacoさんとは、自分たちの関心がそのようになっていくにしたがって、知恵市場のテーマ領域をビジネス、プライベート、社会と三分割し、いずれの領域でも自分の生き方を考え行動していく人のためのメディアにしようと話していました。なおここでいう「社会」とはいわば「シチズン」としての活動という意味で、コミトンのテーマであれば、pacoさんの書いている環境関連はもちろん「911とアメリカ人」「不良債権処理で変わること」「反対側から見ると」などがそれにあたります。

■2002年を振り返って～「日本」にアイデンティティをさぐる-合気道、笙

プライベートにおいて新しくスタートしたのは、合気道や笙(しょう)といった日本的なものを習うことで自分のアイデンティティをさぐることでした。上に「生まれ育ってきたところに根ざすアイデンティティを持てていない」と書きましたが、pacoさんとメールでやり取りしていたときに「持てていないのではなくて、持っているものを自覚できないようになっている」という指摘がpacoさんからありました。

確かに自覚していないだけで実際は独特のものを持っていることも多い。あるいは自覚の仕方が良くない(ネガティブな解釈だけをしている)ということもあります。たとえばpacoさんが上げていたのは、「日本人は無宗教なのではなくて自覚していないだけで実は宗教的」ということです。これは僕の笙の先生(日蓮宗のお坊さん)も同じことを言っていました。「宗教をセクトと捉えるから無宗教となるけれども、宗教心を持っているかどうかととらえるならば、日本人は宗教を持っているのです。たとえば、ばちがあたるという考え方はそうですね」

ということで、持っていないアイデンティティをつくるというよりは、自分の中に既にあるものを、意識したり、それをもっとよく理解するために始めたのが合気道であり、元はそんなつもりはなかったけれども途中からそのような意識をもち始めたのが笙です。まだ理解したといえるところまで全然来ていませんが(体得に時間かかるのがまた日本的?)、よい方向に掘っているという感じを持っています。でも、「道」というのはどこか抵抗があるので、意識して気楽に続けようとしています。

■2003年は……

さて、そして2003年。一番心がけたいのは、仕事をしぼる(さぼる、じゃありません(^_^))ということです。取り組んだことは気のすむまでやれて、しかも他のことが犠牲にならないようにしたいので。去年はこれがある程度出来たのだけど、もっとそうしたい。そんなことを意識しながら、下のような感じになるかな、と思っています。

■2003年は～英語のシャワーから世界とつながれる卒業生が生まれる?

英語のシャワーでは、この1月期から、いわば仕上げのクラスと言えるコミュニケーションのクラスがスタートしました。先日第1回があって、フィリピン人のゲスト・スピーカーと、育児、教育、上司と部下の関係、意見を言わない日本人、といった興味深いトピックに入り始めました。まだ「いざ話そうと思うと英語が出てこない」という人も多いのですが、それはこれから力をつけていくところ。そしてこれから半年以内に世界と「つながれる」卒業生を出したいと思っています。語学の勉強は1年程度で完了してあとは実戦というのがベストだと思っているので、その流れを作りたいと思っているわけです。

ところで、世界と「つながれる」ということに関連して一つ。知恵市場をやっていていつも思うのは、「知恵市場で話しているようなことの重要性に気がついている人はまだまだ少ない」ということです。同じようなことは「日本が持っているよいものを多くの人に知って欲しい」と思って「和散歩」という企画を世界旅行後、始めたgirl friendもよく言っているところです。

しかし一方で、前向きな人はたくさんいて「いい仕事を出来るようになりたい」「やっぱり英語は出来た方がきっと楽しいだろうなあ」と本気で言っています。そしてこの人たちは具体的なイメージが見えてくると英語のようなツールの向こうにまで動き出すのです。そこで英語のシャワーはそういうきっかけにもできたら、と思っています。たとえばコミュニケーションのクラスで「もっとちゃんと話したい」と思った人が、英語の次に日本や日本語について考え始めるというように。単に英語で終わらせない、その人の世界を広げたり深めたりするような英語教室にしたいのですね。

■2003年は～多くの人に知られる仕事への野心-本の出版で

一方、「価値観でキャリアを考えるには」のコミトンで書いたように、自分の中にはハンズオンで仕事をやりたいという部分と「大きな仕事」をやりたいという部分と両方があります。一つの両立法はこの時に書いたとおりですが、もう一つの方法として、それぞれのタイプの仕事をやるというのを今年は考えています。つまりハンズオンは英語のシャワーでやり、大きな仕事(この場合、多くの人に知られる可能性のある仕事の意)は本の出版で出来ないかと思っています。

幸いなことに、これまでに書いた本の評価がよく、出版社からも「ぜひやりましょう」と言われています。またpacoさんに声をかけたら、知恵市場的なテーマでいっしょに書けそうだということがわかってきました。もちろん売れるかどうかはやってみないとわからないし簡単ではありません。さらにその前に本当に書けるのか、という問題もあります。実は本は1年半前から「書きます」といって書かずにいたのです(^_^;。しかし、自分にとっての位置付けが見えてきたので書けるんじゃないか、という気がしています。今、前の本を書いた時と同じ感触がしてきています。

■2003年は～より自然に近い生活へ

まだどういう形になるかわからないのですが、2003年は生活をより「自然」に近いものにしたいと思っています。「自然」というのはもちろん緑が多いとかいうのもありますが、もうちょっと広くて、pacoさんが前に言っていた、もっとものごとの循環が目の前に見えている状態をイメージしています。たとえば土の全くついていない野菜をスーパーで手に取るだけの生活は、その手前のもの作りが全然見えないので、あまり「自然」ではない。老人も子供もまわりに全然いないとか隣の人の顔すら知らないという環境も「自然」ではないでしょう。

しかし一方でどこまで行けば「自然」かというと、一族で村に住んで自給自足するというのは僕の場合、あまり考えられない。何しろ、東京で育ち、上で「自然でない」と言った生活をずっと暮らしてきたので、そちらの方が自分にとっては「普通」です。なので、自分にとって快適で可能な「自然」への寄り方を考える必要があります。

そして現時点では、これという具体的な目標は決められていません。たとえばもっと地域コミュニティがある都内のどこかに引っ越すかもしれない。あるいは近場に畑を借りて何かを作り始めるかもしれない(あまり想像できないと言われているけど)。定期的に「自然」生活を楽しむ場所を見つけるかもしれない。急激には動かないだろうと思いますが、世界旅行について考えていた頃のような感じで、結果として「自分の思った自然な生活に少し近づいたな」というようにしたいと思っています。

なお、まずは関連の本を読んだり、僕よりも自然な生活をしている人たちに話を聞いたり、そこに遊びに行ったりすることから始めました。もし「うちはToshiさんよりは自然じゃないかなー」という人がいたら、ぜひ話を聞かせてください。作業の手伝い(あまり実質的な手伝いにならないと思うけど)とかも喜んでやります(^_^)。あるいは「こんなの参考になるんじゃない」という情報もうれしいです。

■2003年は～海外との継続的な接触をつくっていく

最後に、海外との継続的な接触を増やしていきたいと思っています。現状では時々やりとりをするともだちはいても、継続的なもの、いわばプロジェクトになっているものはありません。たとえばどこかのNGO等に参加するか、自分自身で立ち上げるか...。いずれにしてもここは、「シチズン」としての活動の意味合いを持ったことにしたいと思っています。ただいくつか難しい点があり、どうやってやろうかと考えています。

たとえば現時点でフルタイム(最も極端な例は現地に住んでしまう)でそれをやりたいとは思っていないので、選択肢が狭まります。かといって、現地との直接的な接点は持ちたいので、勉強会では物足りない。また、よく考えないと、よかれと思ってやったことがマイナスになるというのは特に途上国相手の場合ありがちなよう。こちらも主に人を通じて情報収集をしながらチャンスを探していこうと思います。

というようなのが僕の2003年の主なプランです。実はこの他にもいろいろあるのだけど、それはまたおいおいに。さてさて2003年、どんな年にする予定ですか?

この記事に関する感想や意見、またこの記事に対する評価をおまちしています。こちらのページから、お気軽にお寄せください。コミトンはあなたの意見でもっとおもしろくなります。

★コミトンHTMLメールサービスをご存じですか？

コミトンは、web上で読んでいただくwebマガジンですが、毎週月曜日の更新ページをメールで受け取れるサービスもあります。

こちらからご希望のメールアドレスを登録してください。HTMLメールなので、ご注意ください。

Toshi/高橋俊之（たかはしとしゆき）。知恵市場代表。株式会社グロービス執行役員、グロービス・マネジメント・スクール(GMS)統括責任者を経て、2001年7月からフリーランスとして活動。知恵市場の他、使える英語を楽しく習得する「英語のシャワー」を主宰。GMSクリティカルシンキング講師もつとめる。著書・監修書に「テクノロジー・パワード・リーダーシップ」（ダイヤモンド社）、「ビジネスリーダーへのキャリアを考える技術・つくる技術」（東洋経済新報社）。

mail:toshi@chieichiba.net